カテゴリ:読み物類( 717 )

『わたしを離さないで』

カズオ・イシグロのノーベル文学賞の知らせは、まず友人から入り、続いて娘からもあった。『日の名残り』の感動がよみがえった。で、この著者の本を何か読みたくなり、Amazonチェックしたらこれが良さげで、電子書籍にもなっているので買おうかとクリック寸前に娘から、旅先の書店にあったから買う、私も読みたいから、という連絡が入り持参するよう頼んだ。そして娘がまずタイ旅行中に読み終え、私に渡すということになり、がんばって読んでいた。そして次に私が読んだ。これも多分忘れられない小説になる。映画化もドラマ化もされていることを初めて知ったが、活字で読むのはまた全然違う味わいがあると感じる。

最初はとっつきやすくて、次に少し疲れてきて、それからああ素晴らしいとなって、あとはもう一気に最後までいくという感じだった。昨日はそれで、ベッドに寝転がってずっと読んでいた。種と仕掛けがいっぱいの内容なので、主人公が誰と明かしたら色々ばれてしまうが、かといって謎を解くというものでもないので隠しておかないといけない、というのでもなさそう。介護人とか提供者という言葉は最初のページから出てきて、あれかと想像させるものはあるのだが、かといってまだ物語とこちら側との間にはベールがあるみたいな雰囲気。そのまま微細な描写が続いて、ここは小説ならではの楽しみ。この感じ、そうそう分かる、という。映像だったら目線とかちょっとした仕草から読み取る部分なのだろうけど。過去と現在を行き来しながら、でも筋が分かりにくということはなくて、生と死とか愛とか、つまりまあ普遍的な世界に労なく連れて行ってもらえる。孤独と感動で泣いてしまう大人の小説。いやはや良かった。娘がこの人の別のも買うといっているので歓迎。

by kienlen | 2017-10-17 09:21 | 読み物類 | Comments(0)

『見えない橋』

吉村昭の短編集をしばらく前に読んだ。これを買った理由は「著者唯一の私小説」が入っていると書いてあったから。若い頃に書いたもので、母の死の様子を扱ったものだった。私小説とあったから自分のことかと思ったので予想とは違った。私小説と言われなければ分からない。他も、いつものように淡々と、でも人物がこちらに迫り来る描写と、視点のおきどころが好きで安心して読める。安心って、楽しくなるという意味ではないが。こんな風に書いてくれる人がいるという安心感というか。ああ、もういないのだが。

今日は娘が来る日。カズオ・イシグロの本を頼んだ。彼女はちょうどその時、京都から大阪を旅行していて、大阪駅にいたそうだ。で、私の連絡を見て、すぐそこに紀伊國屋があるのを知ってギリギリ買えたとのことだった。売り切れ情報があったので私はKindle購入クリック寸前だったが、娘も読みたいというし、読み回しできる本の方にした。日の名残りは、思い出しても涙が出るくらいに感動した。好きな小説を挙げろと言われたらこれは入れる。タイでは知っている人もほとんどいないように感じるが、ニュースにはなっていた。「イギリスの報道は英国籍といい、日本の報道は日本生まれといい国籍には触れない、面白いですね」と。

by kienlen | 2017-10-10 09:31 | 読み物類 | Comments(0)

『茶の本』

こちらに来る前に友人よりいただいた岡倉天心のこの本は、ずっと、読まないと思いながらその機会がなかったもの。色々な版があるようだが、講談社文庫の昭和46年発行の宮川寅雄訳の昭和62年発行26版。いやあ、素晴らしい本だった。しばらく前に読みかけて、1ページ目から、はあ、すごいと思って先に進まず、今回また最初から読み直すことになった。薄い本だが、濃厚。古い本は前に読んだ人が赤線を引いてあって、それで自分は青線を引いた。結構だぶらないものだな、と思いながら。もちろんだぶった部分も多いがその一部を引用。

もののつりあいを保ち、自分の地位を失うことなしに他人に譲ることが、浮世の芝居で成功をおさめる秘訣である。われわれが、自分たちの役を立派につとめるには、その劇の全体を知っていなければならぬ/虚はすべてを含むがゆえに万能である/禅の先験的洞察にとっては、言語は思想の邪魔者にすぎない/茶の湯は、茶と絵画を主題に織り込んだ即興劇であった/動作はすべて単純に自然におこなわれるべきこと/初めて花を活けたのは初期の仏教徒で、かれらは生きものに対する限りない思いやりから、嵐に吹きちらされた花を集めて、それを水差しにいれたということである/

by kienlen | 2017-09-18 22:15 | 読み物類 | Comments(2)

『言葉と歩く日記』 

そうだ、この間読んだままメモってなかったということに気づいた。読書量激減につき読んだことも忘れる始末。これは多和田葉子さんという、日本語とドイツ語の両方で書く小説家のエッセイ。前に買ってあって読みかけてそのままになっていて、こちらに来る時に選んだ本の中に入れておいたもの。選択に際しては、言葉関係というのは優先順位が高かったのだ。で、タイトル通り日記スタイルなので気軽。ヨーロッパって朗読会がこんなにあるのね、と感心したり、ドイツ語を知らないのが残念だが、ドイツ語という言葉の面白さは伝わる。今日は良いことがあったが少々疲労感もあり眠くなっているが寝るには早過ぎる、が、書くには疲れている。面白かったかというと、はい。こんな感じでタイ語と歩く日記だったら、自分にとってはなお面白いと思う。


by kienlen | 2017-08-30 21:42 | 読み物類 | Comments(0)

まさかの図書館に遭遇

夕方からはコーヒーを飲まないことにしているが、なんだか興奮気味でコーヒーが飲みたくなっていれてしまった。眠れないかもしれない。というのは、すごい出会いがあったからだ。相手は図書館。近所に図書館があると聞いた時は、この地域のどこに、と心底びっくりしてしまったが、歩いてすぐですよと言われ、即刻案内してもらうことにした。目と鼻の先、とはこのこと。小さくて本の数は多くはないがタイ語の本の数が多くても自分にはしょうがないし、何しろ静かで椅子も机もあるし、きれいだしとっても素敵で、つまり土日の居場所としてぴったりなのである。本を持ち込んで読んでても勉強しててもいい。ただ開館時間が9時5時なのが残念である。せめて6時までお願いしたいが、まいいや、土日開館なのだから贅沢は言うまい。それにとにかく近さも半端でないのが何より。出会いに感謝。
by kienlen | 2017-07-18 20:24 | 読み物類 | Comments(4)

『日本人のための怒りかた講座』

本を読むという雰囲気でなく、こちらに来て最初に読んだ本のメモを忘れていた。これまでも何冊か、多分3冊読んでいるパオロ・マッツァリーノさんという怪しげな名前の著者の本。ちゃんと怒りましょう、なぜならば怒るのはコミュニケーションだから、ということを、ちゃんと怒っている著者の方法と経験から語り、同時に、昔は良かった、昔はちゃんと怒る人がいたのに、という論がウソであることを社会学的に指摘。中島義道先生の怒り方にちょっと似ていると思っていたら、彼の著書への言及があった。何かすごく新鮮なことが書いてあるというわけではないけど面白く読んだ。
by kienlen | 2017-06-12 20:10 | 読み物類 | Comments(0)

『日本断層論―社会の矛盾を生きるために』

中島岳志が好きだと言いふらしていたら、これ好きかも、2時間で読めるから読んで、と友人が貸してくれた。もう読んでいる時間ないから謝って返却しようと思って一応ちょっと開いてみたらなんと面白そうで結局今日はこれを読むのに2時間ではおさまらずもっとかけて読み終えた。1927年生まれの森崎和江に1975年生まれの中島岳志が話を聞くスタイル。戦中から戦後にかけてのある部分の状況が森崎和江の生い立ちを聞くことでみえてきて、その後の活動を聞くことである部分の戦後史がみえてきて、森崎和江という人のこともみえてきて、傾倒している友人はいたが自分は読んだことのない谷川雁のこともちょっとみえてきて、その他当時の知識人のことも身近に感じられる本。竹内好もかなり登場。対話と解説のバランスもほど良くてぐいぐい押されるように読める内容だった。大変読みやすく、でも中身は濃い。

近々返却する人の本に付箋をつけてもしょうがないのに、どうしてもで一か所だけ貼ったところがある。〝その後の森崎さんは『からゆきさん』など民俗学的、ドキュメンタリー的な作風に向かう。運動を通して新しい共同体をつくるというよりは、「私」と日本をより深く探すことになる。他方で、その後の日本の運動は、70年ごろの森崎さん的な問題意識を十全には引き継げなかった例も多く、以前からの運動の負の側面、つまり集団系世知を閉鎖的なものとして捉え、仲間内で凝集し、内ゲバや統制ばかり幅をきかす流れが強くなった。それが、広い意味での日本の民衆運動の、いまも残る弱点をつくってしまったと言えよう〟。良い本を紹介していただいた。

by kienlen | 2017-05-06 21:35 | 読み物類 | Comments(0)

『精神鑑定の事件史―犯罪は何を語るか』

雨模様で、暖房を入れない家には寒い。風呂に入ってソファに寝転がって読んでいたがちょっと寒くて起き上がって読み続けた。東京の古本屋街をぶらぶらしていた時、安く売っていたので買った。別の本を読みかけて難しくてこっちにちょっと目を通したら面白くて最後まで。犯罪が起きると必ずのように精神鑑定が話題になり、またそういう関連の本が出たりもするが、これは最近の事件を扱ったり、ひとつの特異な事件について詳述するのでも、それに著者が鑑定したものを述べているのでもない。発行が1997年と、古いといえば古いが、取り上げている事件そのものはもっともっと古いし精神鑑定の歴史にも触れていて基本的なことが分かって面白かった。それと、元々単純なものとは思っていないが、それにもまして精神って実に複雑なのであるというのも分かった。

5章立てで、主にひとつの事件を取り上げながら関連を掘り下げている。まずレーガン大統領暗殺未遂事件。3章のロシア皇太子暗殺未遂の大津事件については明治の精神というか、そういう視点からの分析がひじょうに興味深かった。最後が「哲学者アルチュセールはなぜ妻を殺したか」。哲学者アルチュセールの名前だけは知っていたが読んだこともなく妻を殺したことも知らなかった。これもひじょうに興味深い、まあ、どれもひじょうに興味深いのだが。で、この章に出てくるフーコーのピエール・リビエールの犯罪はあるのに読んでいないのですぐにも読みたいが、そんなことしている余裕があるのだろうか、と、問う相手もいないのだが。面白い本だった。本との出会いもご縁だが、今日は久々の友人から連絡があり、人のご縁の不思議さをまたまた感じた日だった。


by kienlen | 2017-05-01 15:50 | 読み物類 | Comments(0)

『ルポ児童相談所ー一時保護所から考える子ども支援』

仕事がなく用事と言えば友達に会うだけなので、それ以外の時間は本を読める、ということになる。荷造りやら準備やらあるはずなのにいいんだろうかと一抹の不安を覚えつつ昨日はこれを読んだ、会った人は昼前に1人、ランチに2人。この本もやはり書店で偶然見つけたのだが、買った理由は類書があまり見当たらなかったこともあるが、この著者の前作を読んで大変感動し、その後が気になっていたからだった。それにしてもこういう本は何度も読み返す部分がないし、行間に意味を探したりの必要もないので、速読のできない自分にもさほど時間をかけずに読めてしまい、あっけないが書く方は苦労しているんだろうなというのが伝わってきた。内容が内容だけに取材したままに書くことはできないし、大量のデータから一般化するわけでもないので、事例がだぶっていたりするのはしょうがないのだろう。

児童相談所のことって分かりにくいので貴重な報告だと思った。中でも特に外からは分からない、サブタイトルにもある通り、児相の一時保護所を取り上げている。よってますます貴重であると思う。だって外から見えないというだけでなく、どうやら当事者、つまり子どもにとっても親にとっても見えにくい場所であることがこれを読むと分かる。私は告発調のものは好きでないので、このように冷静に伝えてくれるのは好感だった。帯にも「告発では、解決しない」とあるのでそもそもの狙いがそうだと思うし、的を射ていると思う。著者の主張は機会の均等とはっきりしているので、その点では分かりやすく安心して読める感じ。とにかく児相の人手不足というのはヒシヒシと伝わるが、その人件費によって貴重な子どもが万という単位で社会人として納税者になれるなら、人殺し用の道具よりずっと安いと思うが、国家というのはそういう類のものではないのだろう。

by kienlen | 2017-04-29 09:10 | 読み物類 | Comments(0)

『別れの挨拶』

また丸谷才一の本でしかも新刊。東京で書店をブラブラしている時に見つけて購入したもの。外出が続いて本を読む時間がないのもあって時間がかかっていたが、今日は久しぶりに家に居られたので読み進めることができ、午後に会った友人とはまた本の話ばかりしていたのもあり、夕方父を訪ねた後に続けてやっとのことで読み終えた。今ごろになって丸谷才一というのも何だが、と何度もいうのも何だが、やはり面白かった。これまで読んだのは書評ばかりだったけど、この本はそれ以外のエッセイも挨拶文の原稿なんかも入っている最後の新刊ということだ。古典を扱っている章は、特に自分の無知が悲しくなるが、分からないなりにも面白く読めるのは文章が分かりやすいし、もっていき方も分かりやすいから。

どれも良かったけど、芥川龍之介の自殺になるほどと思い、大岡昇平の野火については涙が出たし、未完だったクリムト論もすごく面白かった。歴史的かなづかひの説明にもすごく納得。クヮルテットを聴かうは、プラハの教会コンサートを思い出して、あああああ、そうなんだー、と感じ入り、声を出して笑ってしまったのもあり、多様な楽しみ満載だった。それにしても困った。ここでも絶対読みたいという本が何冊も増えてしまった。最近買っているのは丸谷本の影響下にあり、それを続ける限り読む本に困ることはないけど、読み切れるわけがない。でも、やっぱり本は面白いし、それでいいのだと思わせてくれるこういう本に心より感謝です。

by kienlen | 2017-04-27 23:08 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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