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『落日の轍』

しばらく前に本屋をぶらぶらしている時にたまたま見つけた。「日産には独裁を許す企業風土がある」とタイムリーな帯の惹句があり、企業小説はしばらく読んでないが好きだし、高杉良作品というのも安心感があり買ってみた。30年以上前に書かれたものを復刊したようだった。昭和58年からスタートで、主人公は当時の石原社長と、労組から会社に君臨していた塩路“天皇”。労組というのはほとんど全く縁がなく、いかに力を持つのか等々体験的に知らないが、少なくともこの当時の日産労組のリーダーがすごい権力者であったことがよく分かるように描かれている。具体的には英国進出をめぐって会社の方針に反対するのだが、記者会見を開いて会社批判を展開したり結構ハラハラ。で、問題はどうしてここまでになったのかということで、もたれ合いというか、甘い蜜の吸い合いというか、組織にありそうな話ではあるが規模がでかい。

そこまで独裁体制になると、しかも人事にまで影響を及ぼすというのだから、みんながモノを言えなくなるわけで、ああ、だから独裁になるのだが、で、それまではもたれあいでうまくいっていたのを石原社長が違うタイプで軋轢が生まれてどんどん亀裂が深まり、引くに引けない事態になっていくという絵に描いたようなお話。たださすがに内部からも告発があったりの動きがでてくるあたりはミステリーっぽい展開で小説の醍醐味。金と権力をもって何をするかということだが、こちらも全く縁がないので体験的には分からない。しかし波風のある物語になるのはこういう状況。歴史は繰り返すと帯に書いてあるが、つまり金と権力のある状況で起きることって多様性には欠けるということかもしれない。すごく分かりやすい物語で、びっくりするようなことにはならない。面白かった。

by kienlen | 2019-04-20 10:06 | 読み物類 | Comments(0)

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