『海の祭礼』

驚異的に本を読まない日々が続いている。このまま続くのか、それともどこかでまた読むようになるのか、まあ、このまま読まないはあり得ないし、積んである本、読みたい本は山になってて、さらに買ったりも借りたりもしているし、いずれにしろ本が重要な存在であることが変わるはずはない。はあ、何という回りくどさ…。つまり久々に読んだ本がある、というだけだ。吉村昭のこれ。北海道出身の友人が、開拓民である祖先のルーツを探す旅に行く時にこれを持参したそうで、吉村昭ならぜひ読みたいと思って借りていた。ちょうど北海道のお供にいいだろうと。かといって今回は運転だからそんなに読めるわけがなく、フェリーだけが読書の時間と思われた。でも、それだけ時間があれば読み終えられるだろうと思ったが間に合わず家に持ち越した。相変わらず面白かった。最後はやはり涙。解説にもあったが印象としては冬の鷹によく似ている。しかし、幕末という時代のスリルをもっと描いていて、相変わらず登場人物の心理や人間性が手に取るようにわかるというだけでなく、激動の時代ならではの物語の面白さがある。

前半の主人公といえそうなのはアメリカインデアンの女性と、征服者英国から行った男性の間に生まれた混血のマクドナルドという男性。この人が日本に流れ着くまでの人生を描くことで、アメリカのある一面がよく分かるし、いつもの、細かいけどクセのない文体によってすんなり人物像が見えてよどみなく読める。で、この人が日本にあこがれるあたりの理由も理にかなっていると思わせ、とにかく色々ひっかかりがない。で、この人がずっと主人公なのかと思っていたら途中から、この人に英語を学んだ森山という通詞が中心になる。この2人の交流場面は感動的だし、オランダ語一辺倒だったのがアメリカの艦隊がやってきたのをきっかけに英語の重要度が高まり、森山が優秀な通訳、さらに外交官にまでなるのを描いている。といっても個人的な話というよりは列強から次々と開国を迫られる状況と内戦に近い状況にまでなる日本の危機という社会の中での個人という面の方が強い。森山の悲しい最後は涙。うーん、ひじょうに面白かった。次も吉村昭かに寝返っちゃうか、読みかけの橋川文三と中島岳志に戻るか、どうしよう。

by kienlen | 2018-10-17 14:33 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


by kienlen
プロフィールを見る
通知を受け取る