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『服従』

これはこれは面白かった!本だけでしか味わえない快感ってこれだよな、と思いながら耽読。といっても何が分かっているかというと、ものすごく心もとない。フランスの知識人ってこうなのね、それで読む人にこれでもかっていう教養を要求するんですか、という感じはあったけど、それらがなくても勝手に面白かったです。結局こういうのが好きなのだ、自分、と思った。で、この場合のこういうのって何かというと、皮肉と嫌味とデカダンスというところか。まあ、節操がないので、ハウツーものとさわやか系とファンタジー系とオカルト系以外はたいてい好きになる傾向あり。ただ巨大な問題があって、主人公がユイスマンスという作家の研究の第一人者で、私のようにこの作家の名前ここで初めて聞いた、という者が一体読んだことになるのか、ということだ。まあ、色々なレベルの「読む」があるので、自分勝手に楽しんでいる分にはそれはそれとして置いておくことにする。

ごくごく近未来というか、次の選挙くらいに、フランスにイスラーム政権が誕生するという小説なのだが、政治家から思想家から小説家からジャーナリストから編集者から色々な人が実名で登場する。こういうのって海外の小説では見かけるけど日本にもあるのか、ちょっと知らない。一人称の効果ってこれかあ、と今さらながら感じたのは、臨場感たっぷりで実話のようなのだ。ソルボンヌ大学で教えていた主人公は、選挙の前から不穏な動きを感じ、情報も得たことから田舎に一時避難。パリに戻ると教授職を失っている通知がきている。しかし知識人が騒がないように破格の年金が約束されているのはサウジのオイルマネーがあるから。という物語自体も面白いといえばいえるが、一文一文の含意が重層的で心地良い。ちょうどこのところイスラームの話を聞いたり読んだりが続いていた上にこれを読んだのは偶然だが、多少でも見聞きしたのは想像力を膨らませるのに役立った。服従というタイトルには、ううむ、納得。ヨーロッパと中東、カソリックとイスラーム、人間とは何かということから知識人とは、政治とは、国家とはなどなどめいっぱい詰まってる思想書のようでいて面白い小説。それでユイスマンスを読んでみるかというと、とりあえず自信ない。しかしこういうのの次をどうするかは難しい。プラハの墓かな、手持ちからいくと…。

by kienlen | 2017-02-13 08:31 | 読み物類 | Comments(0)

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