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『タイ社会の全体像-地域学の試み-』

著者の田中忠治先生の本はこれまでもお世話になっているが、これも大作。このところ精神的に不調である一因はこの本にもあると思われる。タイ人って〇〇とか××とかが他人事であれば笑ってすますところだが、あまりに身近にタイ人がいると笑えない。その笑えないタイ人とタイ社会の分析が激しく納得できるものであるだけに、やはり…という感がぬぐえない。あれはこういうことだったのか、これはそういうことだったのか、と、心当たりだらけではないか。しかもこれが体験談とか印象談じゃなくて学術書であり、長年にわたってタイの君主に採用されてきた統治の制度から築かれた人間関係とその集成である社会のあり様は、現代にも生きているということを検証していくわけであるから、なおさら。先生はずっとタイの人間関係は「保護-被保護関係」であると述べているが、例えばこうであると、タイ人の研究者の論をあげている。

「支配層には逆らえないといする観念」「独裁型指導者をよしとする観念」「個人個人が保護者に褒められようとする観念」「自分だけ生きられればよしとする自己本位な観念」という具合である。「依存と自立」というのも、なるほど、という感じだった。立憲君主制をとるってことは、こういう心性をもちやすいのかなという心当たりはあるが、日本とは「個人」か集団かの違いが大きいように思う。いろいろな場面で組織化が難しいというのはよく言われることで、政党の名前に「連帯」なんてのがあったり、呼びかけの言葉が「きょうだいしまいの皆さん」であったり「タイ人同士」とやたらと言うのは逆に怪しいと思っていたが、本当に怪しくなってきた。田中先生の積年の疑問は「なぜタイの農民はかくも貧しいのか」であるそうだ。その研究成果の一端がこういう本として流通してくださるのはありがたいが、将来展望となると、心もとないなあ。まあ、それが他国のことで済まされるとは思えないけど。
by kienlen | 2009-07-08 21:57 | 読み物類 | Comments(0)

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