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感動しました「チェインジリング」

予告編を見て、見たいなって気になっていた。友人にそう話すと「アタシはクリントイーストウッド監督の映画は苦手なんだよね」と言う。それで監督さんが誰かを知った。そういえば私も苦手。社会派のテーマは好きだし、暗部を深く描くみたいな点はいいと思うし、きっと展開なんかもいいんだろうけど、自分でも分からないどこかの感情に負の圧力をかけるような感じがあって、とにかく後味が悪い、というのが今までの乏しい鑑賞歴の感想。そうか、ク監督かあ、じゃ、やめとこ、と思っていたのが昨日まで。で、本日、ランチに夫の店にトムヤムクンラーメンを食べに行ったらタイ人がビールを飲めと勧めて、これは断ったが、日本人の友達が飲めと勧めるのは断らずに1杯ごちそうになった。私はビール1杯で酔うから、このまま帰宅したら寝ちゃうんじゃないか、だったら映画を見た方がマシであろうと考えて新聞で時間をチェックしたところ、一番都合のいいのがこれだった。ギリギリに入ったら、今まで見たこともないような混みようで、えらく前の方の席の隅に座った。ビール飲んだから途中でトイレに行きやすいようにと思って。しかしトイレなんか忘れさせるほど、一瞬も気の抜けない映画だった。重厚で美しく残酷だった。これだけの人がこれを見るということは社会的に意義があるぞ、なんて思いながら真っ先に外に出た。いやあ、素晴らしかったです。「私も苦手」で片付けしまうのは損失であったと思った。いけない、いけない。

実話に基づいたお話なのだそうで、舞台が1928年のロスアンジェルスであるとクレジットが入る。ほう、世界恐慌の始まる前年か、と思う。もっともそういう経済的背景が入り込む隙間がないほどの濃厚なストーリーが始まるのだが、でもこの時代とここまで猟奇的な事件はもしかして関係しているのかな、などと思ったりもする。それはこの映画では描いていないと思うけど。アンジェリーナ・ジョリーが、9歳で行方不明になった息子のシングルマザーを演じる。ひたすら美しいばかりではなくて、どんどん覚悟を決めていく様が見事だし、愛情の豊かさみたいなのもスクリーンいっぱいに感じられた。とても人間っぽいというか、人情味があるというか。警察の腐敗ぶり、権力間の癒着もひじょうにリアリティがあって、こういう基本的構造があるということは、公務員試験の一般常識問題で出題されるべきだろうと思った。権力の問題、差別問題、親子関係、犯罪、宗教というか教会の役割、官僚制度の負の側面、現代的テーマてんこ盛りなのに、シンプルで分かりやすい展開で、残酷な場面を控えめにしてあるので、最初の方の辛さが助長し過ぎることがなく、ギリギリのところで救われる感じがする。こういう歴史があって今があるのだと知る意味でもこれは必見だってことで明日からはこの映画を会う人に勧めることにしよう。食わず嫌いはいけません。全然食指を動かされない「おくりびと」も見てみることにしよう。
by kienlen | 2009-02-25 19:40 | 映画類 | Comments(0)

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