カテゴリ:読み物類( 697 )

なんという不覚。こんな素晴らしい小説を読まずにきたなんて。あまりの感動に次の読書にとりかかれなくなっている。内容を知りもせずにワイセツ裁判という思い込みだけがあり、こんな素晴らしい文学とは知らなかった。今後、好きな小説をひとつあげろと言われたら、まあ、そんな質問されることがあるとは思えないが、これをあげることになるように思う。最高だった。古本屋に105円で置いてあり、じゃあ風呂の中でボロボロになってもいいかという感じで読み始めたら、これのどこがワイセツなんだ、哲学じゃないか、すごい、すごいの驚きを誰かとシェアしたくて心当たりに聞いたけど、今のところ読んだ人にも深く感動したという人にも出会えていない。いやあ、小説ってすごい、深く満足。風呂で数ページずつで何か月も要してしまった。高尚過ぎて感想書けません。伊藤整訳のを補訳で完訳したもの。そういえば若い時に伊藤整好きだった記憶があるが内容を覚えていない。あとがきと解説も良かった。保存版にしたいくらいだがボロボロになってしまって申し訳ない。
by kienlen | 2016-10-06 23:15 | 読み物類 | Comments(2)
しばらく前、急遽夫から店番を頼まれた時、外出先にいて店番しながら読めそうな本を持っていなかったので図書館でこの本を借りた。出だしは少々くどく感じて止めようかとも思ったが、そこを過ぎたら納得できるくだりが多くなり、最終的には大変いい本だと感じた。というか、よくぞ言ってくれました、という感じ。つまり、マスコミ等ではなかなか報道しにくいことが書いてある。事件の背景に精神障害があった場合、それが原因であるとは言えないので触れないという選択は、多分なされているように思う。被害者であれ加害者であれ。さらに精神障害なのかどうかも微妙だし、さらにそれに育て方が関係しているのかどうかなんてさらにさらに微妙だろう。因果関係のはっきりしないものを短い時間で説明するのは、長い時間でも難しいんだからひじょうに難しいに違いない。

統合失調症の友人がいて、この病名に至るまでに色々な診断名が下っていたようだが、彼の説明によると医者の見立てとしては生得的なものだそうだ。へえ、そんなことまで分かるんですかと感じ入ったものだったが、そういう説明があるとすれば環境的なものもあるということになるのだろうか。などと回りくどくいわなくても虐待等々、環境要因が関係することはあるだろうし、かといってすべてなわけもないし、でも避けては通れないし、というモヤモヤ感にひとつのヒントを与えてくれるものだった。それと、長期入院させないという法改定により行き場のない人も出てくるとか、とことん悪くならないと福祉につながらないという日ごろ感じている疑問への答えというわけじゃないけど、なるほどという感じがあった。落とし穴のようなグレーゾーンの苦しさは充分に想像できる。建設的な提案もあり。精神障害者と医療をつなぐ移送サービスの会社を経営するという著者の経験に基づいた貴重な内容と思った。とても良かった。

by kienlen | 2016-09-28 22:58 | 読み物類 | Comments(0)
大好きな黒田龍之助の中公新書を書店で見つけたので購入。読みかけのを置いておいてこちらを先に読んだ。想定読者はこれから外国語を学ぼうとする若い人と思われるが自分のような者にも大変楽しめた。何といっても黒田先生の本は面白い。文章は読みやすいしユーモアがあるしで、何冊か読んだけど挫折したことはない。外国語の勉強に近道はなく地道にやるだけだという確信に満ちたお言葉には、いつも安心する。宣伝文句で苦労しないで上達とか、これをしたら効果があるみたいなのを見ると、はあ、自分にはそんな能力ないや、これをやってもきっとムリだ、決められた通りにやるの苦手、ああダメだ、ちーん、となるので、その点、黒田先生のは実践的でもなく即効性もなく、でも全く知らない言語のことでも面白く説明しているし言葉へのあくなき関心には共感できるし、楽しくてこっそり役に立つ、という感じ。言語学は興味があってもあまりに専門的だとついていけないし、でも何かを知りたいのだ、という感覚にぴったりマッチする本だった。面白かった。しかし、あっさり読み過ぎた感あり。図書館のじゃないのでいつでも読み直しできるので安心。
by kienlen | 2016-09-12 17:27 | 読み物類 | Comments(0)

『プラハの憂鬱』

佐藤優著。好きな作家を読み込む、というタチでなくて脈絡なし読書なのだが、もし冊数が最も多い人をあげるとすれば佐藤優かな。若い時の松本清張を除けば。でもここしばらくこれはと感じる引っかかりがなくて遠ざかっていたところ、友だちが佐藤優講演会に行って良かった話をしていて、その足で図書館に行ったら偶然これがあったので借りてみた。もう素晴らし過ぎて脱力。このまま本の中の世界に留まっていたい感じだった。昨日は松本行きだったので暇にまかせて周辺で遊んでこようかと思ったけど、この本読みたくてギリギリまで家にいて、読み終えたので出かけた。しかしこれって小説なのか実話なのか、まあどっちてもいいのだけどあとがきから想像するにパーツはほとんど実話で構成で脚色している印象。チェコ人の神学者フロマートカの研究をライフワークにしようと学生時代に決め、そのための方策のひとつとして外務省に入り、ロシア語の語学研修先だったロンドンで冷戦末期に当たる1986年から1年2か月学び暮らした日々の様子を綴ったもの。日々の様子で何を思い浮かべるかはそれぞれだろうけど、佐藤優でなければあり得ない日々ではある。そもそも神学部から外務省に入る人自体が世界的にも稀有であるらしいのは英国での色々な人とのやり取りからも察せられる。

ロンドンでチェコ人亡命者が営む古本屋に行くところから本格的な物語は始まる。外交官の卵の著者は店主の博識に、店主は店主でこの日本人の博識に驚き、信頼感をもつ。この店主が元はBBC勤務の亡命チェコ人。ここからチェコという小国の立場、そこから形成されるチェコ人の性格などが語られ、同時にイギリス人とは、ロシア人とは、外交官とは、亡命者とは、亡命者と反対に自国に戻ったインテリは、帝国とは等々が語られる。これを会話で行うので分かりやすくだれない。一語一語に当事者ならではの微細な感情が絡んでいて本当に刺激的。チェコ人がなぜ懐疑論になるのかも、なるほどー。で、ちゃんと、ここでいう懐疑論とは何かの説明も的確になされている丁寧さ。これは一例で、抽象的な用語は一般向けの説明が物語の中に入れ込んであり、読みやすさを考慮した分かりやすい構成になっている。登場人物それぞれから人間とは神とは、人間関係とは、国家関係とはまで網羅的なスケールで思考しながら伝えている。獄中記くらいに感動しました。素晴らしい。

by kienlen | 2016-09-02 10:23 | 読み物類 | Comments(2)
せっかく時間があるので今まで読めなかった本にかかっているのに、本屋に行ったり図書館に行ったりしている。これは本屋で見つけて好きな中島岳志さんの対談本で、相手が、タンマガーイ運動についての本でも言及されていた宗教学者の島薗進さんで、テーマがストレートに興味の的だったので買ったら娘とだぶってしまい、友だちに頼んで引き取ってもらった、ありがとうございます。で、今取りかかっている本より読みやすいのでこちらを先に。目次をみると流れが分かる。戦前ナリョナリズムはなぜ全体主義に向かったのか、親鸞主義者の愛国と言論弾圧、なぜ日蓮主義者が世界統一をめざしたのか、国家神道に呑み込まれた戦前の諸宗教、ユートピア主義がもたらす近代科学と社会の暴走、現代日本の政治空間と宗教ナショナリズム、愛国と信仰の暴走を回避するために、全体主義はよみがえるのか。

この章立てにピンときたら読んで裏切られることはないと思うしピンとこなくても読んでソンはない。大変大変良かった。新書で対談ではあるが、中身はとても濃くて、明治期からの日本独特のねじれを分かりやすく説明していてすごく刺激的だった。自分自身、何を拠り所にするかという時に、やはり宗教だよなと思い、その点自信をもって信仰できる対象があったら人生全然違うだろうと思っているので、ほとんどずっとうなずきながら読んだ。そういえばウディ・アレンの映画でも、キルケゴールの絶望に言及した時、教授が「彼にはキリスト教があるからいい」と即答していた。神も共同体もない底の抜けた個人の行方は…。戦争を挟んで約75年で対称的になる明治から今日までを25年ごとに区切り、自由民権運動の構造、中島岳志らしく当時のテロと今の無差別殺人の共通性なんかも含め細かく論じていて、ああやはり。つまり今戦前の状況に似てきているということだ。さてどうするか、も模索している。上からと下からと両方からの議論は納得できる。それにしても、手っ取り早く毎日絶望できるのがメディアという状況にまでは確実にきてる。現実直視の良い本が怖い時代とは…。

by kienlen | 2016-08-29 21:51 | 読み物類 | Comments(0)
買ってから何年になるのか。もう一生読めないかもと思っていたのをやっと読むことができた。バンコクに住んでいる頃、仕事の関係で使う難解な日本語を教えて欲しいというタイ人が週末わが家に通っていて、その彼女がタンマガーイの信者だった。そのことがずっと頭にあり、メディアで話題になったりもするし、何より日本にも世界各地にも寺がいくつもあり、身近にも通っている人がいるので、こういう研究書があるのを知ってすぐに買ったのだった。何度か読もうとして本棚から取り出し、その都度挫折。趣味で読むには学術書はそれなりに時間がかかるので細切れの時間だと厳しい。5600円もする本、今の状況では買う勇気ないので買える時に買っておいて良かった。

タンマガーイ寺の僧侶、職員、信者にインタビューし瞑想イベントに参加し、という調査と文献から全体的に考察したもの。調査は90年代に行われたものだし、研究書だし、当然最新というわけにはいかないけど、基本を少し分かっていると起きていることの理解はしやすい。時代が変化していく中でこういう運動が生まれてくるのは必然というのが分かる。学生運動との関係も興味深かった。この本を読んでいる最中の昨日から、ちょうどご縁があって聖書を読んでいくことになった。これもずっと機会がなかったものなので楽しみ。聖書でなくて仏教書を読む会があったら参加していたかもしれないし、タイミングの問題なのだ。

by kienlen | 2016-08-25 16:01 | 読み物類 | Comments(0)
しばらく前に買って積んでおいた本。やたらに本を買える状況でなくなり、あるのを消化しつつ図書館利用しつつ、時々買っている。400ページを超える結構な大著でなかなか取りかかれなかったが、読んでみたら実に面白い内容だった。著者は元長距離選手のスポーツジャーナリスト、アメリカ人。「スポーツ遺伝子」のようなものがあるかを探るため、それこそ膨大な科学論文を読み、科学者に取材し、選手とか家族にも話を聞き、さらに歴史的、人類学的な視点もいれ、多面的にトップアスリートを分析している。知っている人は知っているのだろうけど、自分にとってはもう本当にびっくりの連続だった。野球とか球技のトップの視力が測定不能なくらいに良い、というのは、ありそうくらいに思えるけど、生まれてこのかた自分の性別を疑ったことのない女子アスリートが性別検査で男と判定されてタイトルはく奪されて奨学金ストップで恋人とも別れてとなり、納得できない当人が奔走して実は人間を男と女に分けるのはそう簡単な問題でないことを知るというあたり、性別判断は難しいと漠然とは知っていたけど、細かく説明してあって、なるほど、だった。同様に、ドーピング検査といってもシンプルでないこともよく分かる。いやあ、なるほど。

構成もとってもいい。エピソードから入るので素人にも理解しやすく、専門的な内容は比喩で易しく解説。考察は多面的でバランス良くて、シンプルに結論がでるものでないということをあちこちで強調。章ごとの長さも適度。たっぷり書いているため説明不足のストレスなく、かといって過剰のストレスなし。ジャマイカが短距離で圧倒しているのに長距離では強くなく、ケニアはその逆で中・長距離専門。これがなぜかというのも、おお、なるほど。ジャマイカの歴史や言い伝えも興味深かった。犬のブリーディングの話と、中国で長身の子を産むように背の高い人同士を結婚させたエピソードを読んでバレーの試合を見ると、うむうむ。ドーピング花盛りだった70年代が一番記録が伸びていて、その後はそうでもないこと、なるほど。マラリアから身を守るためらしい遺伝子と筋線維の話など、ほほう。アスリートの遺伝子を調べるということは、人間が環境に適応しながら今日まで生きのびてきた歴史を見ることでもある。何から何まで面白かった。アフリカに行ってみたくもなった。大当たり本。

by kienlen | 2016-08-21 21:03 | 読み物類 | Comments(2)

『コンビニ人間』

この間会った年配の男性が、飼っているウーパールーパーを見せてくれた。私はこういう存在そのものを知らなかったので形態にびっくりして「これ、食べられるんですか」と単純な疑問を口にすると「あんたもコンビニ人間みたいだね」と言われた。どういうことかと思ったら、ちょうど芥川賞受賞作のこれを読んだところで、そこに出てくるエピソードのひとつと彼の中で重なるのだそうだ。それもあって帰り道に文春を買い、元々読みたいと言っていた娘が先に読み、次に私が読んだ。芥川賞というと、文学であり大衆小説でなく大衆には面白さが分からないというイメージがあったが、これはとっても面白かった。自分的にはジョージ・オーウェルから政治性を引いたような印象。全体に風刺のようでもありベタのようでいてシュールでかなり怖い。読み終えてから選評を読んだら、笑ったという選者が複数いて、へえ、これ笑えるんだとびっくりした。自分にとって笑う箇所はひとつもなかったので色々に取れる小説ということだろう。

コンビニで18年間バイトしていて、コンビニでなければやっていけないコンビニ人間になるという話だけど、これって別にコンビニでなくても会社人間を考えても同じようなものと思うし、自分もいつも仕事があろうがなかろうがそういう視点で物事を見てしまうので、コンビニ人間を特に不思議に感じないが、しかしそこは高度に画一的ながら独特の配慮もあり、それさえ画一性の中に収れんされるらしいのはやはりコンビニ独特なのだろう、というかそういう風に描いているのがすごい。私自身はコンビニの利用頻度がものすごく低い方なので、コンビニってこういうものなんだというのだけで新鮮だったが、そんな次元じゃなくてもっともっと深い世界に到達していた。ウーパールーパー飼育の方は、ここに出て来るような人物は容認しがたく、批判的な意味での面白さのようだったが、それはそれでその時代の人としての言い分は分かる気がするが、いやはや日本の現代の核心的な部分が実に的確にそのまんま内向きに無駄なく表現されていると思った。面白かったし怖かった。これ以上長いと多分飽きるので短さもいい。



by kienlen | 2016-08-14 17:02 | 読み物類 | Comments(0)

『火車』

初めて宮部みゆきを読んでみた。娘からもらった文庫本にて。彼女は子どもの頃から宮部みゆきをいくつか読んでいて、その都度、巧いけどネチネチしていて好きにはなれない、みたいな曖昧な感想を述べていた。しかし図書館の先生とか国語の先生とかにファンは多く、特にこの本は絶賛されているとのことで読んだそうで、その影響かどうか絶賛だった。今の時代だからこそ読むべきみたいなことを言っていたのでどんなかと思って読み始め、結局昨日はゴロゴロしながら1日中これを読んでいた。つまり何もしなかった。本は人を怠惰にする代表であると今さらながら思う。暇なので料理しよう、縫い物しよう、編み物しようと図書館から関連本を色々借りてきたのだが…、ウチにもたくさんあるのだが…。小説は、特に面白いミステリーは、途中で止められなくなるという問題を解決できない。

平成4年の刊というから結構古い。扱っているテーマは多重債務。それに苦しめられて育った美しい女性が主人公、なのかどうかちょっと分からないけど、姿は見せないこの女性を追いかける物語。逆に言うと逃亡物語。当時とは経済状況も法律も変わっていると思うけど、充分面白く読んだ。人物設定がリアルなのでどの人にも感情移入できて、おかげで読み終えた夕方にはすっかり気分が暗くなり、娘と食べたタイ料理を美味しいと感じられず、ビールを飲んで戻って早々に寝てしまった。暗い想像ばかり膨らんでますます暗くなり、この世の終わりの感じになってよく眠れず、しかし朝になったら、いつものように、ま、いいか、となってオリンピックを少し見た。微細から人間心理にもっていく描写とかつなげ方のスムーズさとか登場人物少なくないのに分かりやすいとか、全体に巧みな技って感じで違和感なしに物語世界に入れた。最後は活字だとすっきり感がないけど映像だったら美しく盛り上がりそう。



by kienlen | 2016-08-11 08:14 | 読み物類 | Comments(0)

『カフカの生涯』

池内紀著、白水Uブックス。図書館にて、易しく読める人物評伝でその時代背景なんかも知ることのできるものと漠然と思いながら棚を眺めていて偶然発見。カフカの生家、書斎、博物館、それにユダヤ人町のシナゴーグ脇のカフカ像と、プラハで意識しなくても目につくカフカだったが、昔、お決まりの変身を読み通したのか途中で止めたのかの記憶もないほど、何も知らない。作家について読んで作品を知ったような気になるのも嫌だしでなるべく評伝は読まないようにしている傾向があったが、何そのカッコつけって感じだし、文学書を読みたい気分でもなくで、ちょうどいいやと思ったらアタリでちょうど良かった。

チェコのドイツ系ユダヤ人という存在がどういうものであって、ユダヤ人の中にも差異があって、親がやり手で出世したことから受けた影響とか、親友がシオニストだとか、異教徒との結婚を許さない様子とか、そういう環境と、それに一番は小役人としてまじめに勤務していた状況と折々の作品とを結びつけながら解説していて、あと、大勢の登場人物を関わりごとに描写しているので混乱しなくて分かりやすかった。女性と結婚に対する引け具合もあこがれ具合も、結局母親的な存在を求めているところも、現代の軟派なバーチャルリアリティー系男性とすごく似ているなあと、そんなことも感じたのだった。時代がどうであれ、人間ってそれまでだし、だから作品も普遍性を持つわけだ。プラハを思い浮かべながら読むには興味深く、色々分かって面白かった。

by kienlen | 2016-08-04 09:20 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


by kienlen
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