カテゴリ:読み物類( 697 )

たまたま通りがかった古本屋で見つけて、古いけど安くないなと思いながらも読んでみたくて買った。1988年6月発行の社会思想社の教養文庫。私はこの年の11月の終わりころにタイに行ったのでだいたいすれ違いな感じだが、その頃はまだ著者で訳者の永瀬隆氏のことは知らなかったし、タイに行かなければあるいはずっと知らなかったかもしれない。泰緬鉄道建設に従事させられた捕虜が大勢亡くなったのはよく知られた話だが、そこで日本軍の通訳を務めていた人がこの永瀬さんで、彼が贖罪のために色々な活動をしているというのをタイで知ったのだった。かといって会ったことがあるわけではない。ただ、どんな人なんだろうと興味をもった記憶はある。カンチャナブリーにある連合軍の兵士の墓を見た時は衝撃だった。名前と共に書いてあった年齢を見て涙が止まらなかった。

その墓地はブーゲンビリアが咲き乱れ、きれいに手入れされていたが、この本に収められた日記を読んで、熱帯のジャングルの中で亡くなった人を葬るってどういうことかを考えさせられた。日記は日本の敗戦直後から始まっている。まずは永瀬さんで、昭和20年の9月22日から。亡くなった捕虜の墓地を探し出して記録するという作業の通訳を命じられたのだ。舞台はもちろんタイ。終戦の安堵感と、捕虜虐待の罪に問われるかという不安感が混じった気持ちのまま任務につく。日記のタイトルが「虎と十字架」である通り、日本人がとにかく虎を恐れる様子がいくらかユーモラスに綴ってあり、そういう日本軍兵士と一緒に連合軍側が十字架を探し出していく様子が生々しい。ああ、ここは…と感じるところに折り目があったりして、どこの誰かも知らないこの本の持ち主だった人に連帯感みたいなのを覚えた。本との出会いもご縁だな。もうふたつの日記がオーストラリア軍中尉とイギリスの従軍牧師のもので永瀬訳。外務省と日本人会への怒りのあとがきで出版の理由が分かる。ここだけ読んでもいいかも。

by kienlen | 2016-12-14 21:29 | 読み物類 | Comments(0)

『対岸の彼女』

初めての角田光代作品。友達が、この作家の中ではこれをぜひ、ということで勧めてくれたもので、大衆小説は読みやすいので他をおいてさっそく読んだ。その友人とは趣味が合う方と思うので期待したのだが、うーむ、正直なところ、何がいいのかほとんどまったく分からず、何だか元気をなくしながら読んでいたように思う。状況的にも息子が突然帰省したり、帰省のあり様がとんでもなかったりというのが挟まっていて気分が滅入っていたのもあるが、それがなくても近い感情になっていたと思う。学校でのいじめ、家族、学校や職場での人間関係、子育ての悩み、夫の無理解、義母との問題といった女の世界の諸々が書いてあった。そう考えると、多くの共感を呼ぶのはなるほどと思わないでもないが、こんな風にステレオタイプに悩むんだろうか、というのがちょっと分からなかった。細部でひねらず構成でひねってあるのも、好みからすると逆の方が好きかも。

そもそも私自身が、ここで扱っているような類の問題を経験していない、わけでもないが、このような捉え方をしていないのでリアルに感じられない。マスコミ報道等ではよく聞く話だが、どこらへんに真実があるかが本当のところは分からないし、というか、そんな単純な問題に思えないので、小説の中でストレートに扱われてもな、みたいな。むしろ少しずらして表現してもらえると、読む側が自分なりに微調整して焦点を合わせられるんじゃないかという気がする。まあ、このあたりは好みの問題が大きいのかもしれない。ベタで分かりやすい方がいい場合もあるだろうし。これを読みながら奥田英朗の沈黙の町でを思い出していた。ちょっと似ているなと思って。でも奥田英朗のは好きなのはなぜだろうか。社会背景への言及の有無とか、そのあたりかもしれない。ここまで女の世界で完結できるって、ある意味すごいなあ。逆にいうと、自分はそういうところから逃げてきたのかもしれない、直面しないで。と考えるといい本だ。友達はそのあたりで勧めてくれたのかもしれないと思ったりもする。

by kienlen | 2016-12-11 22:03 | 読み物類 | Comments(0)

『日記をつける』

荒川洋治の講演会に行った時、一緒に行った荒川ファンの友達に影響されサインもらうために購入した本。岩波現代文庫。講演がすごく面白く、この本も語りのタッチと似ているなあ、面白いなあと思いながら読んだ。娘にこういう本を読んでいると話すと、彼女はずっと日記をつけているそうで、1日の整理ができない日も日記を書くことで落ち着くのだそうだ。へえ、と思っていたら、ちょうどこの本にもそういうようなことが書いてあった。そんなこともあり、細部の積み重ねで成り立っているエッセイもいいものだ、なるほどあの友達が好きなのは他の読書傾向と併せて理解できるぞと思いながら読み進めていくと、ブログについても割合と紙幅を割いている章があった。ブログに対しては、ここまでなのかとびっくりするくらいに批判的で、個人的な行動を無許可で書かれるのは嫌など一部賛同できる部分はあったけど、すべてそうそうとうなずけたわけではなかった。どちらかというと前半の方に面白味を感じた。
by kienlen | 2016-12-09 19:51 | 読み物類 | Comments(2)

『佐藤優の沖縄評論』

しばらく前に読み終えた本。いつ買ったのか覚えてないが、琉球新報社の連載をまとめたものなのでお風呂で細切れに読むのにちょうどいいと思って入れておいて、チビチビと読んでいた。沖縄戦を生き延びた母親を持つ著者は沖縄のアイデンティティを持つとのことで、その視点と中央からの発想をもよく知る視点と、経験、知識を動員して沖縄の人たちに向かって国家が何をするか、官僚の思考形態はどうで、それに対してはどう対処するのがいいか等々を具体的に教える形式のも多い。そういうのには、心の中でがんばれ、と言っている自分がいる。ちょうど鳩山氏が首相を辞める前までの時代なのでだいぶ前ということになってしまうが、自分がちょうど辺野古を見た頃と一致。佐藤氏の本は実用書として役立つと思っているがこれも。はずれがない著者。
by kienlen | 2016-11-20 22:21 | 読み物類 | Comments(0)
読書家の友だちが「読む?」とも聞かずに貸してくれた。これ面白いよ、という一言だけはあったが押し付けみたいなものだ。タイトルを見て、あまり読む気がしなかった。こういうのは結構読んだり見たりしている気になっていたから。それにもう、なんか、時代状況を思うと目をそむけたくなる、というのもある。でもちょっと違うなという感じがした。このタイトルだと国民が自ら選択したイメージだし、それにこの友だちとは基本的に趣味があうので、彼女が面白いというならば、という期待もあった。開いてみたら、活字が大きい。このところ昔の名作も読みたいと思うようになり本棚から引っ張り出すのだが、活字の小ささに引けてしまっているので、読みやすそうというだけで開いたら、なんとすごく面白そう。著者の加藤陽子さんって名前は聞いたことがあったけど、そもそも読んだことがない。専門が「1929年の大恐慌と、そこから始まった世界的な経済危機と戦争の時代、なかでも1930年代の外交と軍事です」と1ページ目に書いてある。それから、歴史は政策上も教訓にされやすいが、必ずしも良い方向にいくわけではないという例があり、と、とっつきやすくてますます面白そう。あと、中高生に講義したものをまとめているということで表現が易しく、この人の立場だったらどうするか、この場にいたらどうするかと問いながらの進行になっている。で、この進学校の優秀な生徒たもすごいのである。

ということで序章で歴史の面白さとは何かみたいなことを9.11に対するアメリカと日中戦争に対する日本が似ているとか、アメリカの南北戦争と日本国憲法とか具体的に語り、戦争は相手国の憲法を変えるのであると、根本へ掘り下げていく。1章が日清戦争、2章は日露戦争、3章が第一次世界大戦で4章満州事変と日中戦争、5章に太平洋戦争となるが、タイトルから5章に重点があると何となく思っていたけど4章までのボリュームが大きいし、それに日本だけでなくて各国の思惑、動き、すれ違いやら細かく描いていて面白い。視点は政治家とか軍人とか、動かしている側が中心で、これもちょっとタイトルから勝手に想像していたのと違ったけど、知識人がどういう論調だったかとか無名の人の日記とかも引用して多面的に感じられた。当たり前といえば当たり前だけど、いちいち資料、出典を述べているので、何でこういえるのかというストレスはなし。500ページ近い厚さではあるが、文字が大きいし、要人の写真やイラストや関連の地図や、重要フレーズをインパクトのある手書きであしらったりと読ませる工夫もいっぱい。中高生だけでなく中高年にも、と書いてある通り、大変面白く読んだ。細かい出来事も関連づけて網羅的に語ってくれていて、古い資料などは現代の口語で言い直してくれているのも、私としてはありがたかった。だいぶ売れた本なのだそうだ、知らなかった。貸してくれた友人に深く感謝の面白さだった。


by kienlen | 2016-11-17 20:23 | 読み物類 | Comments(2)
前に一冊読んで面白かったので同じ著者の本を。石黒マリーローズさん。国際化といっても欧米を知るにはキリスト教の知識が欠かせないという視点から、それを伝えるための本を書いているようで、前のもこれも同じ趣旨であり、キリスト教が何より素晴らしいとかキリスト教徒になれという勧誘ではない。で、自分にとってのキリスト教への興味もそれなので、ニーズに応えてくれるのがありがたい。さっそく偶然いくつかの疑問に対する答えがあった。ひとつはハロウイン。ネットで簡単に調べても何かいまひとつ分からずにいたら、この本にこう書いてあった。「…たくさんの知らない聖人たちのためにも祈りをささげる日、それが諸聖人節または万聖節の11月1日であり、その前夜がハロウインになるわけです。ハロウインのハローは『聖なるもの』を意味しています」。まあ、でもこれで何か分かったとはいえないか…。

あと、おーーと思ったのがイギリスでの日曜日営業。ドイツでは日曜日はちゃんと店が休みだったのにイギリスではそれがないどころか、美術館や博物館なども定休日がないようで娘とびっくりしていたのだが、その説明があった。それによると「1994年の8月28日より、イギリスで今世紀初めて、法的に日曜日にデパートやスーパーマーケット其の他の小売店が営業できるようになりました。経済復興のためですが、日曜に仕事をしてはならない宗教的な約束事が破られることになったのです」。キリスト教を理解するのに役立つ映画の紹介もあり面白かった。

by kienlen | 2016-11-06 23:56 | 読み物類 | Comments(0)
明石書店のこのシリーズのロンドン版を図書館で借りてガイドブックとして持参した。こういう短く色々なことを紹介している本って、読み物としては何か物足りない感じがあったが、ガイドブックとしてはいいなと思いながら楽しく読んだ。これを見て絶対行きたいと思ったのがロンドン塔で、ちょっと中心から離れていたが、最終日に行ってみることにした。なぜロンドン塔かというと、夏目漱石が明治33年の10月31日に訪れていたとこの本で知ったから。時期が同じ。倫敦塔という作品にまとめたそうで、青空文庫にあったのでダウンロードして旅先で読むつもりだったが集中できず。ロンドン塔というから塔がひとつあるのかと思ったらお城みたいだった。拷問部屋や牢獄があり、王族貴族が幽閉されたり処刑されたりしてきた建物なのだそうだ。そういう場所で国王が戴冠式までを待つのだというから、即位イコールいつかは処刑の可能性みたいな覚悟ができるのだろうか。
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どこに入るのにも行列。ここではタイ人のグループがいた。
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血の塔の中に入って見学。ブーリン家の三姉妹という映画で処刑の場面があったけど、これもロンドン塔で裁判と処刑が行われたようである。メインのホールは王家の歴史を紹介しながら豪華絢爛な宝物を収めてあった。
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規模が大きくて写真はほんの一部のみ。テムズ川の対岸に行かないと全景は無理と思われる。そこまでする時間も意欲もなし。イギリスの建物は見た範囲ではモノクロームに徹していて、曇り空と調和していた。人々の服装も黒が圧倒的に多いシックな街だった。この本にはフィッシュ&チップスの美味しい食べ方が書いてある。ビネガーをたっぷりかけて食べるのだそうだ。そうするとあの油っこいのがさっぱり食べられるのか、なるほど。今夜はフィッシュと芋を自分で揚げようとイワシを買ってきた。

by kienlen | 2016-11-05 18:14 | 読み物類 | Comments(0)

『職業としての小説家』

羽田のチェックインカウンターで通路側を希望したがダメだった。満席だと言われた。もともと娘が、安いチケットがあったから確保してしまおうということで決まったロンドンだったので、そんな希望が通るわけない。しかし窓際で良かったのは、北上してゆく経路だったのでロシア上空からシベリアだろうか、ちょっと分からないけどなかなか荒涼とした景色が見えたこと。通路側にいたのはイギリス人らしい男性で、常備しているらしいヘッドホンつけてバババババとずっとパソコン画面見ながら何かしていて、その後はババババとずっとゲームをしていた。ビールもワインも呑まずトイレに立ったのは2回だけで、しかも何度も失礼と言うのは煩わしいので娘と一緒に行った。という機内で村上春樹のこの本を読んだ。娘が文庫を買って持参していたのだった。彼女はいつでもどこでも寝れるのでほとんど寝ていたが私はどこでもいつでもよく眠れないのでずっと起きて色々読んでいた。そして今も、まだ寝ていたい時間なのに起きてこんなことをしている。アパートを急いでホテルにしました、みたいな感じの部屋から外の音がよく聞えて、大声やら車の音やらかなり激しい。それに救急車だかパトカーの音が何度も、というか今も聞える。

本は、活字も大きく村上春樹なのでもってまわっていながら読みやすく、エッセイなのであまり時間かからなかった。日本の業界からの扱いについてかなり率直に語っていて、こんな書き方するんだ、というちょっと驚きがあった。どういう過程で小説家になったのか等々、私は知らなかったのでその辺の事情が知れて面白かった。芥川賞とかノーベル賞とか、つまり権威ある賞についての考え方もあり、なるほど分かります、という感じがした。文学賞の選考委員にならない理由も丁寧に説明してあった。アメリカで受け入れられていく過程もひじょうに面白かった。すごく普通にまっとうな人で、そういう人が業界的に異端みたいであるらしいのも面白かった。このところ聖書を読んでいるせいで今になって感じてて、この間も知り合いから今さら何だよと大笑いされたのだが、あの絶対性を内在化している人たちにとっても新しいのではないだろうかなどと感じたのだった。昨日ホテル周辺をブラブラしていて地下にある風情たっぷりの古本屋に入ったら、もちろんみんな英語の本の中に混じって、日本語の多崎つくると・・があった。ニーズがあると踏んで引き取ったんだろうか。これ、前回の旅の本として読んだことを忘れていて娘に言われて思い出した。ファンの資格はなさそう。
by kienlen | 2016-10-29 13:27 | 読み物類 | Comments(2)
これは本好きにはたまらない本。カナダはトロントの刑務所で読書会を主宰する敬虔なクリスチャンのキャロルに誘われ、ジャーナリストである著者も読書会ボランティアを務めることにして行った1年間の記録。参加を決める前に著者の逡巡があるのだが、理由は、ロンドンで強盗に襲われた恐怖が、犯罪者に会うことでよみがえるのではないかという不安があったからで、もうひとつは、顔や名前を知られて自分にも家族にも何かあるのではとの心配。とまあ、そういうところからスタートする。著者とキャロル以外は仮名だが、起きたことやセリフは実話なのだそうだ。まず読書会の様子が一番多い。120冊くらいの本が登場して巻末にリストになっている。私が読んだのは、子どもの時に読んで内容を忘れているのも含めてなんとなんとたったの6冊であった。で、この読書会、進行はキャロルだったり他の人だったり、受刑者が行ったりと色々だが、1人の登場人物に対してそれこそさまざまな感想、意見が出てワクワクの面白さ。

もうひとつは、著者が受刑者にインタビューする場面。殺人、銀行強盗、薬物と犯罪の種類は色々だが、どうしてそういうことになったのかなどが会話主体で明らかになる。そしてもうひとつが刑務所内の様子と出来事。規則、仕事、人種構成、ストライキがあり、ケンカがあり、武器作りがあり、イジメがあり等々。400ページを超える長さで基本読書会の様子だが全く飽きないし、軽いタッチなのに涙がホロリという場面も。本の力を信じている人たちによる本の力の物語だ。もちろん万能であるわけはないが、ここまで真摯に本について語り合うということは、その人の生き方とか世界観とかが出るということで、それが感動的。受刑者だけに一筋縄の人生ではなく、個性的な感想も多々。どの人物も魅力的に描かれている。著者は外の世界の恵まれたマダムたちの読書会にも参加していて、対照的な人たちが手紙を交換したり、楽しいエピソードもある。小説よりもノンフィクションの方が人気とのことで、読んでみたいなと感じる本もたくさんあった。ネットで紹介されていたのを見て興味もち、この間のブックフェアで買ったもの。読書会やりたいという気持ち強まる。それにしても刑務所事情は日本とはだいぶ違うように感じられ、そのあたりも興味深かった。いやあ、良い本でありました。

by kienlen | 2016-10-20 20:03 | 読み物類 | Comments(0)
神保町の古書市でこの本を目にした時は、これだ!と思った。藤原書店、500ページの大著。定価が5800円+税で古本でも3300円。ちょっと迷ったが、仕事にも日常にも関係ないので特に調べてみるということまではしてないが漠然と気になっていたことのヒントがあるような気がして購入。なお、今Amazonで見たらえらく安い中古がでているが。まあしかし本というのは価値を考えると安いものである。これだけのことを他の何で代替できるかというと、とても思いつかない。暇になって読めるようになってさっそく取りかかり、思った通りの面白さではあるが文章が読みにくくて、一文を何度も読み返さなければならず、なかなか進まなかった。しかしそれにしても期待通りのことが書いてある。ヴァスコ・ダ・ガマがインドに到来した年から始まり、東インド会社とインドの関係、中国がいかに列強から蹂躙され、日本はアジアの帝国目指してどう立ち回り、東南アジアで唯一植民地にならなかったタイは大国を目指すのでなく緩衝地帯である道を徹底させることで西洋の支配を切り抜け、というようなことが、各国の国内というか地域事情の細かい説明と、それがどういう時代背景と重なっていたのか、それから、イギリス、フランス、ポルトガル、オランダの支配の仕方の違い、それによって植民地となった国がどういう影響を受けたのか、と書くと、一般的な話のようではあるが、この450年間をアジア全体を巻き込んで一気に俯瞰するスケールの上に、ひとつひとつの描写がエピソードまで細かいのだから実に面白かったし、説得力ある。小説読むと、やっぱ小説で言足りるというような気分になり、でもこういう歴史書を読むと、やっぱ事実は面白いと感動し、つまりどっちも面白いのだ。

アジアへの進出はイスラムを排除する十字軍の続きで、宣教師とセットで、だからこの宣教師がいかにその国に取り入るかがひとつのポイントになるのだが、このあたりも大変に興味深かった。アジアというくくりなので当然インドと中国が中心で、特に著者がインド人ということでインドは詳しいが、自分としては日本がもちろん気になる。インドではイスラム化によって廃れていたヒンズー教を知識人が見直し改革したことでキリスト教化を避けられ、日本では徹底的な排除の後、神道で政祭一致の政策を取って自信をつけたことが功を奏したのに対し中国は脱宗教化の方向へ。権力者に近づくことで成功したかに見えると、権力の交代で得られたもの以上を失うというのは、中国への布教の過程に典型だった。イギリスの統治が精神にまで及ぶのに対しオランダはひたすら利益追求のみというあたりの対照も、このスケールの中で見ると、なるほどなあで、それが今日のインドやミャンマー、インドネシアにつながっている。あと、ヨーロッパの美術館なんかで中国の物がすごく多いのにちょっと驚き略奪の成果だろうかなどと思っていたのだが、中国がヨーロッパの文化に与えた影響力の大きさにも触れてあり、なるほど。原書の初版が出版されたのは1953年だそうだ。翻訳は2000年。訳者によると、サイードのオリエンタリズムはこの本に触発されたとか。翻訳がなかなか出ないので自分でやったというようなことが書いてある。ありがとうございます。著者の経歴を見ると、評伝があったら読みたいような人。大満足な一冊だったが、読んで読んでと気軽に勧めるには大著過ぎてそこまでの暇人は心当たりなし。

by kienlen | 2016-10-10 10:50 | 読み物類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


by kienlen
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