カテゴリ:読み物類( 697 )

『永い言い訳』

何の本が娘の所に行っているか分からずだぶっても困るので読まないのは持ち帰るように言っておいたら、こちらの意図は伝わらず全然意味不明の文庫本5冊が戻って来た、というか娘が読み終えてかつ再読はしないだろう本の新規参入というか。その中の1冊が西川美和のこれ。ずっと前に「ゆれる」を見た時、これはすごいと本当に感動した。あれでオダギリジョーが好きになり、彼が出ているというだけで見に行った映画もあるが、ゆれるはずっと良かった。監督がこの方で、すごい才能と思ったことは今もよく覚えている。ただ、その後で西川監督というだけで夢売るふたりを見ようと思って見損ねて劇場じゃなくて何かで見たのだが、そのせいかどうか分からないけど、これは好きになれなかった。環境は大きいので映画館だったら違ったかもしれないけど。で、本は読んだことがなくてこれが初めてだ。まさか今の時期に読むわけにいかないが、まあちょっとだけね、と数ページで我慢していたのだけど、それではおさまらずに今日は朝から仕事もしないで読んでしまった。がっくり。

誰か読んだ人がいたら話したいなと感じる本だった。人物造形がものすごく分かりやすい。動作や周辺環境もすごく詳細で、映画の場面を説明されているような感じ。まあ、映画を作る人なので当然かもしれないけど。そうそうこの映画も気にはなっていたのに、行かれなかった。これを読んで映画を見たくなるかというと、うーん…。10歳若かったらもっと感じるものがあったかもしれないと思わなくもない。今もなくはないけど、さすがにここまでくると、こういう瑞々しさっていうか、つまり瑞々しくなさそうでいて瑞々しいみたいなのが、ちょっとね、という感じかな。主人公の性格はすごくよく分かる気がする。あと子どももとってもリアルに感じたし他の登場人物も違和感なし。心の動きも行動も不自然さを感じなかったけど、かといって手放しにすごく良かった、感動したと言えない感じはやはり歳なのか、何なのか、ということを誰かと話してみたい感じがする。構成も登場人物の数も複雑じゃないのでひじょうに読みやすく、誤読もなさそうなので感想を話し合うにはふさわしそう、と、ひとりで思っている。

by kienlen | 2017-01-09 13:42 | 読み物類 | Comments(0)

『文学賞の光と影』

小谷野敦続き。こういう本を買うわけなく図書館にて。だいたいその日の気分で似たような傾向を借りることになり、この時はこの類だったのだ。かなりアバウトに読んだだけだけど、オタクぶり炸裂だった。どうしてこんなに詳しいんですか。お子さまの時から文学者の相関図とか文学賞の種類とか受賞者を記録していたようだ。で、政治家が二世三世で、経済界なんてもちろんたいていそうで、それで文学者もなるほどこうなのか、というのはくっきり分かる。特に選考委員に夫がいて妻が受賞するとか、怪しいよね、みたいな匂いをぷんぷんさせながら紹介。意外な組み合わせがたくさんあった。知らなかった。この著者の好みは、売れなくても受賞しなくても作家であり続ける人のようで、ちゃんとそういうのが好きだと書いてある。それから賞に対して貪欲であることを表明する人とか。

作家と学歴というのもあり、これがもう名前と大学のオンパレード。忘れていたけど昔読んだ作家の名前が出ていて懐かしくなる。高木彬光は、毒を食らわば皿まで、がやたらに出ていたなとか、ふうん、京大工学部だったのか。早大はやたらに多くて、著者の感想が「早稲田的な臭いのする人というのがいて、川本三郎や加藤典洋などいかにもそうなのだが東大である。阿刀田などは逆に、顔のせいか東大に見える」って、言いたい放題、楽しい。ストーリーを追ったりする必要がなくてただ目を通すだけで気楽。文章も含みがなくて簡単だし。青土社がこういう本出すんだ。こういう本って誰が読むんだろうか。文学研究者か。確かに資料としての価値はあるかも。そうだ、あるある。図書館でないと発見できない本だ。

by kienlen | 2017-01-08 21:15 | 読み物類 | Comments(0)
いつ、なぜこの岩波新書を買ったのか、全然覚えていない。発行は2008年。読もうと思ったのは、やはりロンドンに行った時の印象が強烈だったからだ。どこの書店にもオースティンが一等席に並び、オースティンの本袋があり、バースにはオースティンハウスがあってギフトショップは混んでいた。なぜに、この1775年生まれの作家がここまで人気なのか。日本でいうと誰だろう。時代は違うけど、夏目漱石かな。教科書にもでてきて、読書感想文の課題になって、誰もが知っていて今も人気がある。それはともかく、この本が手元にあるのは知っていて、読みたいな、でも他も読みたいなで時間が過ぎていたが、読み始めてみたら面白くて最後まで読んだ。ということはやるべきことをまたやってないということでもある…。最近図書館で借りて文学評論読んでいるが、オースティンが常連であるのも影響していると思う。

私が読んだのは自負と偏見のみで、オーディオブックスでエマを聞いたりがある程度。この本は親切にも各小説のあらすじがあり、また、ひとつ読んであると、解説によって人物像が想像しやすいので全部読んでなくても充分楽しめる。だいたい、大勢人物が出てくるので自分のように名前が苦手な者にはあらすじを読むだけでもなかなか容易ではない。なるほど、深い世界なのね、と深く感動した。そして知らなかったことが色々。中学英語で夕食はサパーと教わったような記憶があるが、これの意味がほう!食事の時間で階級が分かるとは!あと、自負と偏見でびっくりしたことで、つまり長男相続の件だが、こういうことって国を形作る基本項目のひとつなわけで(きっと)それが日本と共通ってのが面白かった。というのは、今まで中国と同じと思っていたのだが、この間の本で中国は違うとあって余計に気になるようになった。まあ、それが誤解という可能性はあるけど、調べてみないと。だいたい私はブリジット・ジョーンズの日記が自負と偏見の現代版というのも知らなかった。以上は本筋ではなく、一番のポイントはリージェンシー時代とビクトリア時代の違い。大変満足な一冊だった。

by kienlen | 2017-01-04 18:37 | 読み物類 | Comments(0)

『象を射つ』

ジョージ・オーウエルについての評論を読んでいる時、象を射つへの言及があり、読みたいなと娘に言うと、動物農場に入っているとのことだった。じゃあ読んだことあるのか。しかし覚えていない。それで読んでみた。読むというほどのボリュームではなくて、たったの15ページ。植民地ビルマに、帝国主義イギリスの警察官として赴任していた著者の体験のようだ。どういう体験かというと象を撃つはめになってしまった体験。発情期に象が暴れるというのはタイにいる時に聞いて知っていた。それで観光客が犠牲になることもたまあにあった。で、そういう象がいると連絡があり警察官が象撃ち用の銃を手配して出かけて行く。

彼は象を撃ちたくはない。撃ち方を知らないのもあるが、貴重な象を撃つのは忍びないからでもある。落ち着きを取り戻していれば撃つ必要もないのだ。しかし、象撃ちを見たさに群衆が2千人ほども付いてくる。帝国の白人と現地の黄色い人たち。彼は帝国主義が嫌いなので、警察官でいることももう辞めると決めている。しかし黄色い人たちが支配者の手先に何を望んでいるかは理解している。こう書いている。「白人が圧政者となるとき、彼が破壊するのは、自分自身の自由なのだ」。群衆の期待に応えるよう自分自身が追い込まれていく心理描写がとっても分かりやすい。象が撃たれて死ぬまでがまた悲しい。そして撃った人の気持ちなどまるで眼中にない民衆。こういうことって帝国主義と植民地の関係でなくても対個人でもあるし、体験といっても、相変わらず実に普遍的である。すごい。良かった。

by kienlen | 2017-01-03 17:31 | 読み物類 | Comments(2)

『「文学」の精神分析』

斎藤環著。図書館で借りたもの。これのちょっと前に小谷野敦の『もてない男』もざっと読んだ。今の気分はこういう評論というかエッセイになっている。仕事の合間にちまちまと読めるからだ。それでAmazonの評価はどうかなと思って見てみたら投稿はなしだったが、本の紹介で若い読者に読んで欲しいみたいに書いてあって、ちょっとびっくりした。今の若い読者はこういう文体を好むんだろうか。と書いてから、そうか自分だって若い時は分かるとか分からないじゃなくて難解な文体にあこがれたことを思い出した。小谷野本は逆に、友達はジェットコースターと言っていたが、つまりザザザという文体なのでこちらとの違いは大きかった。もっとも両者の間は全然関係ないのだけど。

この方の本は前に何か読もうと思って挫折していたように思うので今回もムリかなという感じを持ちつつ読み始めた。でも面白かった。そもそもこれを借りてみたのは、最初に宮澤賢治論があったからだ。とはいってもただ友達とちょっと話題にしていたというだけのことではあるが。それから小島信夫、三島由紀夫、石原慎太郎、中上健次、村上龍、京極夏彦、中井久夫…とくる。ここまでは、まんざら知らない人達でないので興味深く読んだ。作品は読んだのは少なくて読んでないのがほとんど。読みたくなったのは石原慎太郎。後ろの方は知らない作家が続き、多和田葉子は買ったきり挫折中だしで、読み飛ばし気味。次は何にしよう。この本と一緒に図書館から借りてきた『女の一生』に取りかかるわけには、絶対いかない、決意。この状況を脱したら読みたい放題。それを待つ。

by kienlen | 2016-12-29 22:22 | 読み物類 | Comments(2)

『あひる』

娘が絶賛で、何度もいいよいいよと言うので図書館で借りることにして聞いたら貸し出し中で予約しておいたのが、本日到着との連絡あり、明日から休館とのことなので受け取りに行った。立ち読みできるほど短いと言われていたがその通り。あまりにいいよいいよと言われたので期待してしまったけど、歳のせいだろうか、何がそんなにいいのか分からなかった。というメールをしたら、彼女はやはり相当好きらしい。また会った時にゆっくり聞いてみよう。しかし、本読んでる場合じゃないのだが…。あひるのおかげで他に4冊借りてきて読みたいものだらけ。ああ、この事態はあひるそのものだ。数日後には娘に頼んだのが何冊もくる。困った。でも楽しみ。こうなるとやはりあひるはいいとこ突いていると思った。
by kienlen | 2016-12-26 23:40 | 読み物類 | Comments(0)
川端康雄著。タイトルはもちろんだけどみすず書房なのが気になり図書館で借り、小谷野本に続いてこれ読み始めたらまた面白くて最後までいってしまった。読み始めから面白かったので娘にメールしたら「みすずだ!」と、同じ反応だった。がんばって欲しいです。それにしても本のおかげで仕事がさっぱりだ…、ということにしておこう、まずい。そういえば昨日タイ人に「ヤバイと大変は同じ意味ですか」と聞かれた。マズイも教えるべきだったか。でも意味は微妙に違う気もする。日本語って難しい…のではなくつまり母語の無意識さが難しい。この本はタイトル通りオーウエルの動物農場の解説。最初にテクストとして抄訳があるので復習で読み直し、改めて面白さを確認してから、ヤバイ、全訳をもう一度読むのだと思いながら解説へ。高校生くらいを対象と想定しているような書き方で、よって世代的に知らない可能性のある革命とは、ソヴィエト連邦とはなどはもちろんのこと、政治とは何かとか、基礎的な説明を織り込んでとてもとても分かりやすく、面白く、でも熟年高齢が読んでも多分退屈ではないと思う。少なくとも私は夢中に。でも知識いっぱいの人には退屈なんだろうか、分からない。人生に退屈しないコツは知識を貯めないことかもしれない。いや逆かな。

3回分の授業という形式になっていて、それぞれ「悪い時代の作家」「おとぎばなしの文法」「ことばのディストピア」というタイトルがついている。1回目は1903年に生まれて1950年に肺結核で没したオーウエルの短い生涯をざっと解説。スペイン内戦で喉を撃ち抜かれて奇跡的に助かったこと、出自、学校生活など。ざっとではあるが背景が分かる。カタロニア讃歌を別の人の作と思い込んでいた自分はバカである。どこかで探して遅ればせながら読まねば。2回目もタイトル通り。どれも今に通じるから面白いというかとっても怖いのだが、特に3回目の政治と言葉のところは全く今そのものだ。ストレートな言葉を使わないことの何が問題で何を意味するか、そしてどうなるか。最後の結びは感動。「ディストピア作家が希望を歌う?矛盾していると思うかい。でもね、そもそも希望がなかったら、作家はわざわざディストピアなんて書いたりしないんだよ。」まさに、そう思います。全体的にひじょうに好みだった。基本的に語りかけスタイルは好きではないけど、わざとらしさを感じなかった。良かった。





by kienlen | 2016-12-24 10:28 | 読み物類 | Comments(0)
この間図書館をブラブラしていて小谷野敦のこの本が目に入った。思惑にはまってタイトルに惹かれたのと、この著者の本は多分3、4冊読んでいると思うけど、結構面白かったなというイメージだったのと、何よりも出だしに掲げたタイトル「私は『自己嫌悪』が分からない」に、ギャーっと思ったからだ。もうそのまんま同感な文章が続くエッセイ集。発行は2004年で、へえ、筑摩書房。2000年から2004年にかけて色々なメディアに掲載したものに加筆訂正したものと書下ろしの両方を収めているそうだ。図書館で借りるのって難しいのを選んでも結局読み切れないことがほとんどで、今回はいい加減それに学んで軽く読めそうなセレクションにして、その中でも特に軽そうなこれをまっ先に読み始め、短いエッセイなので寝る前にボツボツいこうと思っていたら面白すぎて止められなくなった。

知識教養がすごいので、なるほどーなことばかり。それに目の付け所が分かるなあというものばかり。中国をシナと呼ばない理由というのは、私も、その一般的に言われる理由では根拠が薄弱ではないだろうか、英語はチャイナだしタイ語はチンだぞとどこかで思っていたので、そうだよね、こういう疑問抱いてもいいよね、とすっきり。で、話の発展のさせ方も面白かった。芸能界で時間を問わずにおはようございますの挨拶をするのはなぜかの考察も、いやはや面白かった。大河ドラマのキャスティング考など、大河ドラマも見てないし役者についても知らないのになぜか面白かった。大笑いした項目もあり。この間、荒川洋治講演会に行った後、友達が彼の本を買いあさって読み漁っているが、どのディテールに目がいくかの共通点があるんだろうと感じていたけど、私は小谷野氏の関心の方面には大変共感だった。おもしろくてためになった。すぐ忘れるのがもったいないけど。次は動物農場についての解説本にしよう。

by kienlen | 2016-12-23 19:26 | 読み物類 | Comments(2)

『脂肪の塊』

図書館に行こうかと思いながら、やはり仕事しないとと思い直して家に戻ったら図書館から返却の催促メールがきていた。それで出直して図書館へ。4冊借りて戻ろうとして、ふと脂肪の塊を思い出した。読みたいと思って読んでない必読本。家にあったような気がして探さなくちゃと思って延び延びになっている。図書館でいいじゃないか。古い全集のモーパッサンに入っていた。と、社会人用の机にいた2人が去ったのでちょっと椅子にかけて読んでいくかと開いたら、もうあまりの面白さに読みふけってしまった。人間の本性も戦争の本質もくっきり。すごく短くてすごい濃厚。

普仏戦争中、馬車に乗り合わせた中・上流3カップルと修道女2人と共和主義者1人と娼婦1人。もうこれだけで何が起こりそうかイメージできるが、そして期待を裏切るわけではないが、ストレートに引き込まれる。状況が浮かんでくるリアルな描写。この中でバカをみるのはもちろん最下層の娼婦に決まっている。食べ物を分け与え体を分け与え、それなのに最後の涙までがさげすみの対象に。1880年の小説。若い時、読むべき名作というのを読んでなかったのが幸いで今になって感動できて良かった。もっとも、読み直しだったらもっと良かったかもしれないが。はあ、素晴らしい。素晴らしすぎて仕事は全くできなかった。

by kienlen | 2016-12-21 21:32 | 読み物類 | Comments(0)
草思社文庫900円+税。娘に割引価格での購入を頼み、この間東京へ行った時に受理。すぐに読み始めたが途中で他を入れたり時間がなかったりでやっと読み終えた。この本を知ったきっかけは偶然書店で見つけただけだが、結果的にすごーく面白かった。著者は1858年没というイギリス人のマックファーレンという方。全然知りません。イギリス有数の歴史・地誌学者なのだそうだ。訳者は渡辺惣樹さんという方でやはり知りません。で、この訳者が自分の著書を書いた後に、参考にした文献のひとつであるこれを訳したということのようだ。原著は1852年にニューヨークで刊行され、その後日本に来た西洋人が参考にした文献なのだそうで、ペリー提督もその中のひとりということ。となると、もっと別の内容だったら別のアプローチをされたんじゃないか、強引に植民地化されていたんじゃないか、みたいなことを考えてしまう。ここに出て来る日本はものすごく魅力的だ。政治は別にして。

豊富な資源と美しく豊かな自然環境と、誇り高く盗まず偽らず誠実で勤勉であると同時に娯楽も楽しむ人々。女性は美しく、男性もジェントルマンでどこに出しても恥ずかしくない。何かと比較対照されているのは隣国の支那なのだが、全体的に日本への評価が大変高い。あと、トルコとよく比べていて、言語から日本と近いのは中国ではなくトルコという点も納得って感じ。あとは、まえがきにも書いてあるけど、帝と将軍の権力の二重構造の説明に納得。これが開国交渉に影響しているのではないかと訳者は述べている。漁民があちこちに漂流してそこに住みついたり捕虜になって交渉事に使われる様子が詳述されているのも実に興味深かった。ロシアは漁民を助けてはロシア語を教えて交渉に役立てていた。こういうのは、山の民には想像が及びにくい話。著者は日本には一度も来たことがないそうだ。貿易が許されていたのは中国を別にするとオランダだけだった時代、オランダ人に化けて実は色々な国の人が来ていて、彼らが伝えたものや資料からの分析なのだそうだ。ヨーロッパの国々の中の関係性も大変面白かった。薄っぺらい自画自賛や愛国心云々教育より、こういうのを読んだ方がいいんじゃないかな。権力者がどうすべきかのヒントもあるし。



by kienlen | 2016-12-15 16:44 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


by kienlen
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