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『室町記』

日本にいたら年末の雰囲気が漂い始めるころかと思うが、こちらにいると、多少は涼しくなって日も短くなっているとはいえ、かといって日本のあの雰囲気とは違い、まさに気づいたらあっという間に11月も半ばになっている、という、まるでそのまんま。この本を読んだのもしばらく前のことだ。すっかり影響されて何冊もここから読んでいる丸谷才一の読書案内本で絶賛されていたので、やはり読んでみたくなって持参していたもの。絶版のため古本にて購入。これもアタリだった。すごい面白かった。室町時代というのはあまり注目されない時代なのだそうだ。しかし、この時代こそ、お茶やらお花やら現在日本文化の代表とされている文化が花開いた時期なのだそうで、そのことについて細かく記している。で、その記し方にもう大興奮。

天下を統一するような強い統治者のいない時代、何というか主人公のいない時代という感じの中で、本格的な都市文化が栄え、地方文化も生まれたのだが、ここで面白いと思ったのは、イタリアのルネッサンスと違い、日本の地方文化があくまで中央志向だったという指摘。確かに今にも通じるなという気がした。お茶もお花も、もてなしの文化として花開いたことが何を意味するのかとか、連歌が極端に形式主義になっていく過程とか、わくわくしっぱなしだったが、能の確立については、日本の芸術が一般民衆の反応を無視しない形であったのが特徴だと西洋との比較で述べているのもひじょうに興味深かった。人間関係の機微とか、もうもう、内容濃過ぎて消化しきれないが、全体に、俯瞰的な視点と巨視的な視点とが納得できるバランスで配置されていて大変満足な一冊だった。読み直すべき積読本に加えておくのがいいかもしれない。





by kienlen | 2017-11-13 07:08 | 読み物類 | Comments(2)

ブックフェア

写真がアップできなくて書く意欲が低下していた。ポケットWi-Fiの容量の関係なのだろうか。今日またやってみたらできた。実験。
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この間、バンコクで開催されていたブックフェアに行ってみた時のもの。この言葉を糧にこれからも生きていくことにする。しかし、思うのだが、これをしてきたことが今日の孤独につながっているのではないだろうか。まあ、いいや。というわけでブックフェアにこの間行って来た。ちょうどラマ9世王の葬儀の期間に開催されていて、私は、ハイライトの火葬の日の翌日に行ってみた。こんな時にブックフェアに行く人がいるのだろうか、ガラガラだろうと思って行くと、なんとかなりの人出だった。本好きとしては嬉しい光景。
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そのことを娘にメールしたら規模を聞かれ、確かに東京のような規模とはまったく比較にはならない。で、東京では今年はないとのこと。タイは本を読まない人たちが多いと思われるので、ブックフェアがあったこと自体が驚きで行ってみたわけで、期待もなかったわけで、その割には賑わっているのに驚いたのだった。小さくして気楽にやる方が時代に合っているような気がする。
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とにかくこの賑わいは予想外だった。で、週末にいつものように近所の図書館に行っていつものようにタイの雑誌を読んでいたら、偶然このブックフェアについて書いた記事があった。今年はいつになく賑わっているという内容だった。どうやらその大きな要因は9世王関連の本とか。なるほど、だからこの時期なのか。そのコラムを書いているジャーナリストの本の売れ行きも良かったらしくて、コラムの中で喜んでいた。
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こういうのもありね、と感じたコーナー。興味を惹かれる本があったが、タイ語だし、1ページ読むのに時間かかるし、そんな時間ないし、もう色々買ってしまったし、どうせ読めないやと思って止めたのを軽く後悔している。何のかんのといっても、タイの田舎ではこういうイベントがないのだから、バンコクの良さではある。





by kienlen | 2017-11-05 21:00 | 読み物類 | Comments(2)

『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』

娘が来る時に、せっかくだから何か新刊をと思っていたところ、たまたまこの本の紹介を目にして即決、持って来てもらった。このタイトルだけ見たらとても読む気になれないが内容が面白そうだったのだ。そして原題は単にCleverlands。日本自画自賛の傾向を意識して付けたタイトルなんでしょうか。とはいえ、私には大変面白かった。著者は英国人教師。この人が、国際学力テスト「PISA」の成績上位の国という条件に加えて人口規模等で多様性をもたせて、フィンランドと日本とシンガポールと上海とカナダの教育について紹介した本。なぜこのような本を読みたくなったかというと、バンコクの学校に衝撃を受けてしまって立ち直れないかもしれないから。ただ、公式統計の分析だと味気ない。ところがこの本は現役教師が、教師宅に泊まりこみ、学校見学やら実際に授業をやってみたり、公式、非公式インタビューなどを総合し、もちろん統計や先行研究をたくさん引用しながら一般向けに読みやすく書いている。英国との比較的な視点が多いので英国の教育事情も透けてみえるのも面白い。

アジアの教育といえば詰め込みで独創性がないという印象があるというのは私たちも聞いているし、ここでもその思い込みがあることとを認めつつ、そんな単純な話しじゃないというところを浮き彫りにしている。タイトルをみると日本褒めているようなイメージだがそんなことはない。まだ子どもがいない著者は、子どもをこの国の中のどこで教育させたいかという自問をしているが、日本が選択肢に入るということは絶対になさそうだ。最初のフィンランドも相当良さそうだが、最後のカナダが著者のお好みにあっているようだし私もいいなあと思ったのはカナダだった。つまりアジアの国々というのは移民が大きな教育問題にはなっていないわけだ。その点カナダは移民を大量に受け入れている国で、それでも成績で上位に位置している。日本人が日本の章を読むと、えっと感じる点もいくつかありそう。まあ、それがまた面白くもあるが。どっちにしても、軽く読める割には全体的にとっても興味深かった。見方が単純でなくて安易に評価を下してないのが好感。



by kienlen | 2017-10-29 20:43 | 読み物類 | Comments(0)

『すべてがFになる』

娘が来る時に「なんか軽く読める小説持ってきて」と頼んでいたらこの本を持って来た。どれにするかは任せる、買うまでもないのでキミの蔵書から、と私が言ったのに対して打診も相談もなかったが、実は森博嗣は、前にエッセイを読んで、この人は好きだなと感じた人だった。かといって小説を読もうかと思ったかというと、そうでもない。ので、こういう形で読めるようになったのもご縁である。娘がカズオイシグロを旅先で読んでいる間に私はこれを開いたり閉じたり。私にとってはちょっと海堂尊を彷彿とさせる出だしがひじょうに気に入って娘に礼を言った。あ、海堂尊から主張を差し引いたって感じかな。

工学部の先生だった作家らしく、というか、これを書いた時点では現役の先生だったようだが、それで私には内容的にはてんでついていけなかったので肝心の謎解き部分はもう、はあそうですか、なのだが、よってそこはまあ飛ばし読みになったが、それでも面白かった。こういう感性は好きだし、登場人物もとっても魅力的。途中まで読んで止めるというわけにはいかない。謎解き小説の最後を先に読んでしまうという人に会ったことがあり、その時はびっくりしたけど、謎が分かったからって途中がつまらなくなるわけではなく、これもそういう人は最後を先に読んでもいいんじゃないだろうか。これを読んでいる途中でカズオイシグロの方を先に読んで、純文学と大衆文学ってこういう風に違うのね、などと思いながら読んだ。映像はどっちも見てない。

by kienlen | 2017-10-25 13:09 | 読み物類 | Comments(2)

『わたしを離さないで』

カズオ・イシグロのノーベル文学賞の知らせは、まず友人から入り、続いて娘からもあった。『日の名残り』の感動がよみがえった。で、この著者の本を何か読みたくなり、Amazonチェックしたらこれが良さげで、電子書籍にもなっているので買おうかとクリック寸前に娘から、旅先の書店にあったから買う、私も読みたいから、という連絡が入り持参するよう頼んだ。そして娘がまずタイ旅行中に読み終え、私に渡すということになり、がんばって読んでいた。そして次に私が読んだ。これも多分忘れられない小説になる。映画化もドラマ化もされていることを初めて知ったが、活字で読むのはまた全然違う味わいがあると感じる。

最初はとっつきやすくて、次に少し疲れてきて、それからああ素晴らしいとなって、あとはもう一気に最後までいくという感じだった。昨日はそれで、ベッドに寝転がってずっと読んでいた。種と仕掛けがいっぱいの内容なので、主人公が誰と明かしたら色々ばれてしまうが、かといって謎を解くというものでもないので隠しておかないといけない、というのでもなさそう。介護人とか提供者という言葉は最初のページから出てきて、あれかと想像させるものはあるのだが、かといってまだ物語とこちら側との間にはベールがあるみたいな雰囲気。そのまま微細な描写が続いて、ここは小説ならではの楽しみ。この感じ、そうそう分かる、という。映像だったら目線とかちょっとした仕草から読み取る部分なのだろうけど。過去と現在を行き来しながら、でも筋が分かりにくということはなくて、生と死とか愛とか、つまりまあ普遍的な世界に労なく連れて行ってもらえる。孤独と感動で泣いてしまう大人の小説。いやはや良かった。娘がこの人の別のも買うといっているので歓迎。

by kienlen | 2017-10-17 09:21 | 読み物類 | Comments(0)

『見えない橋』

吉村昭の短編集をしばらく前に読んだ。これを買った理由は「著者唯一の私小説」が入っていると書いてあったから。若い頃に書いたもので、母の死の様子を扱ったものだった。私小説とあったから自分のことかと思ったので予想とは違った。私小説と言われなければ分からない。他も、いつものように淡々と、でも人物がこちらに迫り来る描写と、視点のおきどころが好きで安心して読める。安心って、楽しくなるという意味ではないが。こんな風に書いてくれる人がいるという安心感というか。ああ、もういないのだが。

今日は娘が来る日。カズオ・イシグロの本を頼んだ。彼女はちょうどその時、京都から大阪を旅行していて、大阪駅にいたそうだ。で、私の連絡を見て、すぐそこに紀伊國屋があるのを知ってギリギリ買えたとのことだった。売り切れ情報があったので私はKindle購入クリック寸前だったが、娘も読みたいというし、読み回しできる本の方にした。日の名残りは、思い出しても涙が出るくらいに感動した。好きな小説を挙げろと言われたらこれは入れる。タイでは知っている人もほとんどいないように感じるが、ニュースにはなっていた。「イギリスの報道は英国籍といい、日本の報道は日本生まれといい国籍には触れない、面白いですね」と。

by kienlen | 2017-10-10 09:31 | 読み物類 | Comments(0)

『茶の本』

こちらに来る前に友人よりいただいた岡倉天心のこの本は、ずっと、読まないと思いながらその機会がなかったもの。色々な版があるようだが、講談社文庫の昭和46年発行の宮川寅雄訳の昭和62年発行26版。いやあ、素晴らしい本だった。しばらく前に読みかけて、1ページ目から、はあ、すごいと思って先に進まず、今回また最初から読み直すことになった。薄い本だが、濃厚。古い本は前に読んだ人が赤線を引いてあって、それで自分は青線を引いた。結構だぶらないものだな、と思いながら。もちろんだぶった部分も多いがその一部を引用。

もののつりあいを保ち、自分の地位を失うことなしに他人に譲ることが、浮世の芝居で成功をおさめる秘訣である。われわれが、自分たちの役を立派につとめるには、その劇の全体を知っていなければならぬ/虚はすべてを含むがゆえに万能である/禅の先験的洞察にとっては、言語は思想の邪魔者にすぎない/茶の湯は、茶と絵画を主題に織り込んだ即興劇であった/動作はすべて単純に自然におこなわれるべきこと/初めて花を活けたのは初期の仏教徒で、かれらは生きものに対する限りない思いやりから、嵐に吹きちらされた花を集めて、それを水差しにいれたということである/

by kienlen | 2017-09-18 22:15 | 読み物類 | Comments(2)

『言葉と歩く日記』 

そうだ、この間読んだままメモってなかったということに気づいた。読書量激減につき読んだことも忘れる始末。これは多和田葉子さんという、日本語とドイツ語の両方で書く小説家のエッセイ。前に買ってあって読みかけてそのままになっていて、こちらに来る時に選んだ本の中に入れておいたもの。選択に際しては、言葉関係というのは優先順位が高かったのだ。で、タイトル通り日記スタイルなので気軽。ヨーロッパって朗読会がこんなにあるのね、と感心したり、ドイツ語を知らないのが残念だが、ドイツ語という言葉の面白さは伝わる。今日は良いことがあったが少々疲労感もあり眠くなっているが寝るには早過ぎる、が、書くには疲れている。面白かったかというと、はい。こんな感じでタイ語と歩く日記だったら、自分にとってはなお面白いと思う。


by kienlen | 2017-08-30 21:42 | 読み物類 | Comments(0)

まさかの図書館に遭遇

夕方からはコーヒーを飲まないことにしているが、なんだか興奮気味でコーヒーが飲みたくなっていれてしまった。眠れないかもしれない。というのは、すごい出会いがあったからだ。相手は図書館。近所に図書館があると聞いた時は、この地域のどこに、と心底びっくりしてしまったが、歩いてすぐですよと言われ、即刻案内してもらうことにした。目と鼻の先、とはこのこと。小さくて本の数は多くはないがタイ語の本の数が多くても自分にはしょうがないし、何しろ静かで椅子も机もあるし、きれいだしとっても素敵で、つまり土日の居場所としてぴったりなのである。本を持ち込んで読んでても勉強しててもいい。ただ開館時間が9時5時なのが残念である。せめて6時までお願いしたいが、まいいや、土日開館なのだから贅沢は言うまい。それにとにかく近さも半端でないのが何より。出会いに感謝。
by kienlen | 2017-07-18 20:24 | 読み物類 | Comments(4)

『日本人のための怒りかた講座』

本を読むという雰囲気でなく、こちらに来て最初に読んだ本のメモを忘れていた。これまでも何冊か、多分3冊読んでいるパオロ・マッツァリーノさんという怪しげな名前の著者の本。ちゃんと怒りましょう、なぜならば怒るのはコミュニケーションだから、ということを、ちゃんと怒っている著者の方法と経験から語り、同時に、昔は良かった、昔はちゃんと怒る人がいたのに、という論がウソであることを社会学的に指摘。中島義道先生の怒り方にちょっと似ていると思っていたら、彼の著書への言及があった。何かすごく新鮮なことが書いてあるというわけではないけど面白く読んだ。
by kienlen | 2017-06-12 20:10 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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