2016年 10月 10日 ( 1 )

『西洋の支配とアジア 1498-1945』

神保町の古書市でこの本を目にした時は、これだ!と思った。藤原書店、500ページの大著。定価が5800円+税で古本でも3300円。ちょっと迷ったが、仕事にも日常にも関係ないので特に調べてみるということまではしてないが漠然と気になっていたことのヒントがあるような気がして購入。なお、今Amazonで見たらえらく安い中古がでているが。まあしかし本というのは価値を考えると安いものである。これだけのことを他の何で代替できるかというと、とても思いつかない。暇になって読めるようになってさっそく取りかかり、思った通りの面白さではあるが文章が読みにくくて、一文を何度も読み返さなければならず、なかなか進まなかった。しかしそれにしても期待通りのことが書いてある。ヴァスコ・ダ・ガマがインドに到来した年から始まり、東インド会社とインドの関係、中国がいかに列強から蹂躙され、日本はアジアの帝国目指してどう立ち回り、東南アジアで唯一植民地にならなかったタイは大国を目指すのでなく緩衝地帯である道を徹底させることで西洋の支配を切り抜け、というようなことが、各国の国内というか地域事情の細かい説明と、それがどういう時代背景と重なっていたのか、それから、イギリス、フランス、ポルトガル、オランダの支配の仕方の違い、それによって植民地となった国がどういう影響を受けたのか、と書くと、一般的な話のようではあるが、この450年間をアジア全体を巻き込んで一気に俯瞰するスケールの上に、ひとつひとつの描写がエピソードまで細かいのだから実に面白かったし、説得力ある。小説読むと、やっぱ小説で言足りるというような気分になり、でもこういう歴史書を読むと、やっぱ事実は面白いと感動し、つまりどっちも面白いのだ。

アジアへの進出はイスラムを排除する十字軍の続きで、宣教師とセットで、だからこの宣教師がいかにその国に取り入るかがひとつのポイントになるのだが、このあたりも大変に興味深かった。アジアというくくりなので当然インドと中国が中心で、特に著者がインド人ということでインドは詳しいが、自分としては日本がもちろん気になる。インドではイスラム化によって廃れていたヒンズー教を知識人が見直し改革したことでキリスト教化を避けられ、日本では徹底的な排除の後、神道で政祭一致の政策を取って自信をつけたことが功を奏したのに対し中国は脱宗教化の方向へ。権力者に近づくことで成功したかに見えると、権力の交代で得られたもの以上を失うというのは、中国への布教の過程に典型だった。イギリスの統治が精神にまで及ぶのに対しオランダはひたすら利益追求のみというあたりの対照も、このスケールの中で見ると、なるほどなあで、それが今日のインドやミャンマー、インドネシアにつながっている。あと、ヨーロッパの美術館なんかで中国の物がすごく多いのにちょっと驚き略奪の成果だろうかなどと思っていたのだが、中国がヨーロッパの文化に与えた影響力の大きさにも触れてあり、なるほど。原書の初版が出版されたのは1953年だそうだ。翻訳は2000年。訳者によると、サイードのオリエンタリズムはこの本に触発されたとか。翻訳がなかなか出ないので自分でやったというようなことが書いてある。ありがとうございます。著者の経歴を見ると、評伝があったら読みたいような人。大満足な一冊だったが、読んで読んでと気軽に勧めるには大著過ぎてそこまでの暇人は心当たりなし。

by kienlen | 2016-10-10 10:50 | 読み物類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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