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裁判傍聴記録

午前中はタイ人の裁判を傍聴する予定だった。夫が自転車で先に出てしまい、私の方はまごまごしていて出るのが遅くなったので車にする。駐車場がいっぱい。付近の県庁駐車場に止めて走った。傍聴席もいっぱいだったらどうしようと心配したが余計だった。ビザのない人を雇った件で出管法違反、風俗営業の許可なしで営業した件を多分これまで審理してきたのだと思われるが、今日はもっと重たい人身売買罪の審理だった。230万円で女性を買って480万円の借金を課して働かせたというもの。女性が逃げてしまうと大損なのでためらっていたら組織の方から「2か月以内に逃げたら代金は払わなくていい」という条件を提示されてその気になったというもの。被告は日本人と結婚していたことがあり、今年小学校入学という子がいる。そしてタイに残して来た子が母を頼って来日しているという状況。私らには教科書みたいな展開の話しなのだが、人身売買罪というのは当然のことながら被害者がいないとダメなのである。よって、報道されるとしたら、言われなき借金を負わせられて自由を拘束され、逃げるとヤクザに追わせると脅され強制的に売春させられた被害者に対して、それをさせた被告人という構図になるのだろうか。

情状証人として被告人を金銭的にも援助してきた日本人男性が登場。弁護士が、この男が責任をもって、日本語も覚束ず職を得るのも難しいタイ人女性を支えていく、この先の違法行為はさせない、という心証を与えようとするものであることは容易に想像できるが、当方タイ人と縁があっちゃった者のよしみとして、うんとかばって見たとしても、この人で大丈夫かなあと思わせる問答だった。弁護士が職業などを尋ねないのも、怪しいじゃんと思ってしまう。一方の検事は「あなたね、経済的に面倒みるって言うけど余裕はあるんですか」と質問。「あります」と答え。「お仕事何されているんですか」「定年退職して、あ、退職じゃないか…」とあやふや。もしや解雇?なんて思わせてしまう歯切れの悪さだ。でも土地が売れたらしい。それでお金があるらしい。しかし今って土地の価格かなり下がっていると思うけど大丈夫なの?といらぬことを考えてしまう。

まあこのへんはともかくとして、話しがもっとかみ合わなかったのは被告人質問だ。弁護士が同情をかう作戦なのか「あなたも最初に来日した時は借金があって売春させられたんですよね」「はい」「辛かったですか」「いいえ、ママがいい人だったから気楽に仕事しました」「…」という具合。「気楽に仕事」の部分であるが、タイ語が聞こえたけど、まさにそのまんまの言葉遣いだった。人身売買って人をモノのように売り買いするとんでもないことである、という考えは検察も弁護士も裁判官も共有しているように感じられたが、被告人の理解はちょっと違うようである、ということが傍聴席にも伝わってくる。裁判官が身を乗り出すようにそこを諭したら「でも、子供を人並みに育てるためにお金が必要なんです」と答えた時には、ため息こそもらさなかったものの、内心はそんな様子。

「あんな答え方したら裁判官の心証が悪いに決まっている」「心証はともかくとして、ここまで悪いことしていたら重たいよ、でも当人は自覚ないね。みんな当たり前のようにやっていることで、タイでも行われていることで、それが違法ってあんまり分からないだろうね。困っている女の子助ける程度の考えでしょ」「別の答え方すればいいのに」「あれじゃあ本当に自分勝手という以外にないね。でもどうやって答えるのよ」「子供の教育のためって」「それじゃあ同じでしょ。それ単なる身勝手。1番の問題はタイだと地獄みたいなものだってことで、タイの政治と社会の中では私のような者がいくらがんばっても生活費さえ足りません。だから日本に来てがんばって働きました。行為に関しては深く反省しておりますが、他に方法がないんです、はどう?」「その通り」「これって弁護士が言ってあげるといいのにね」「弁護士はがんばっていたじゃないか」「でも基本的にタイの事知らないから難しいでしょう。彼女のような人がタイでどういう暮らしなのか想像できないんじゃないの」「そうだなあ。当人がそう言えばいいのになあ」「でもこれを言うには知識が必要だよ、それある?」「そういう知識のない人の方が日本に来るんだ」「だから日本の入管政策だとこうなるわけ。タイと日本と両方問題」ってな雑談を夫と交わす。つまり珍しく会話のあった日ということになる。さらに夫がいろいろ言うから「裁判は法律の観点からでしょう!」と大きな声を出して他のタイ人に笑われた。
by kienlen | 2008-03-13 19:27 | タイ人・外国人 | Comments(0)

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