『物語 タイの歴史-微笑の国の真実』

中公新書のこの本を書店で見つけた時は、やっとこういうのが出た!と心の中で叫んで、内容は1ページも開かずに購入を決め、奥付だけ見たら発売直後だった。もしや一番乗りか、と思いながら早速読んだ。そして、とっても面白かった。この本が15年前に出ていれば私のタイ生活はもっと深まったのではないかと思うと残念だ。タイは東南アジアで唯一植民地にならなかった国であり、第二次世界大戦の時も日本と手を組んでいるふうでもあったのに、最終的にはうまく立ち回って敗戦国にならず、よく日和見外交などと言われるスタイルの外交政策で危機を乗り越えてきた国だ。その程度は知っているが、その1歩先の「でもどうして」までは知らない。それが見えるような通史となっているのがこの本。しかも、昨年発生したクーデターの背景解説まであって、これ1冊読めばかなりのタイ通になれるくらいの豊富な内容となっている。

著者は柿崎一郎さんという横浜市立大学の先生。歴史が専門というわけではないようだが、行き届いた内容に思える。周辺諸国との関係、ヨーロッパ列強や日本との関係も出てくるし、動的な描き方で楽しく読める。ここではタイは「世渡り上手」と表現されている。日本のような島国ではなくて、国境線が情勢の応じて変化するような立地にあるわけなので、世渡りを上手にしないと国そのものが消滅してしまっても不思議ではない。あのへんで生まれたり滅びたりしてきた国を「マンダラ型国家」というのだそうだ。つまり中心から離れるに従って権力が及ばなくなり、隣国との境目も明快でない。力の強い大マンダラが中小マンダラを飲み込んで大きくなり、それがあっちに移ったりこっちに移ったり。そうしてタイががんばってきた様子がタイのナショナル・ヒストリーになっているわけだが、タイの英雄は闘った相手国、つまりラオスやミャンマーやカンボジアから見たら逆なわけで、歴史観の違いが現在まで影響している…というくだりはどこも共通なんだな、と思った。タイ語も出てくるし「なるほど!」の連続で満足の1冊だった。
by kienlen | 2007-10-04 22:42 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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