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『外国人犯罪者-彼らは何を考えているのか』

電車やバスで移動していると本が読めるけど、このところ車ばかりなので読めず、中公新書1冊に何日もかかってしまった。著者は岩男壽美子さんという学者。昭和10年生まれというから私の母親とほぼ同年齢だ。面白いという作りにはなっていないが、貴重なデータの詰まった本。どういうデータかというと、全国5か所の刑務所で服役中の日本人・外国人・男女合計2165人からの調査票による多岐にわたる調査項目の答えを分析したもの。外国人の国籍は40か国以上にのぼるとのこと。まず比較のためのカテゴリーとして、犯罪目的での来日のいわゆるプロ群と、それ以外に分けている。そして日本人と外国人、男女、出身地域など、有為な差のある対照を紹介し、他項目との相関もみている。当然こんな調査を単独でできるわけがなくて、法務省との共同研究。これだけの人数と多言語でもあることから、かなり費用もかかる大掛かりな調査なんだろうなと思った。

タイムリーな本なのだろうと思う。体感治安の悪化と外国人犯罪の増加、裁判員制度の導入、労働市場のグローバル化やら国際結婚の増加やらと、役者は揃っている。外国人人口は相変わらず増加中だし、今後ますます増えないわけはない。だから共生社会、と言っても、きれいごとでいくわけない、と著者は述べている。その通りだと思う。それで外国人と犯罪について知ろうではないか、ということで、世界にもほとんど類を見ないこの調査研究になったということだ。とにかく刑務所は外国人だらけ。まずはどんな人達が服役しているのか、どんな罪を犯したのか、日本の警察の取調べは予想と比べてどうか、逮捕のリスクをどう見積もっていたのか、人生観やら公平感やら、質問は膨大で、1冊ほとんど丸ごと数字と分析なので横書きのレポートの方が読みやすいのじゃないかと思った。ここから浮かび上がってくる事実があり、また著者の提言も含まれている。その中で私が同感するのは、動機の追及が最重点になっているらしい捜査手法への疑問だ。つまり動機と行為が因果関係で結ばれているという発想なのだろうけど、だから、報道では必ず「動機を追及中」と書かれるが、そんな単純なものだろうか。そしてその動機によって罪の重さが違ってくるのも、分かる気はするが曖昧さをどう判断するのかは難しいところだと思う。著者は、動機重視は裁判員の判断を難しくするだろうと述べている。という具合になかなか興味深い点を突いているように思った。
by kienlen | 2007-09-17 20:21 | 読み物類 | Comments(0)

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