また母の元を離れる決意をした男の子

恒例火曜日の店番だった。誰も来ないので本読んでいたら、いつも来る若いタイ人男性が入って来た。来日からまだ3か月なので、年上の人へのワイ(合掌する挨拶)などの礼儀正しいタイの作法そのまんま。いつものようにカウンターにただ座っているから、特に気にもせずに読書を続けた。するとバイトのタイ人女性が「この子タイに帰るの」と私に向って言った。そういえばこの間、日本語学校が夏休みに入ったらしばらく里帰りすると言っていたから「帰るって一時的でしょ」と言うと「違う、もうタイに帰る」ということ。「ええ、どうして」「友達がいなくて寂しいから」と、寂しいを何度も繰り返した。彼は18歳。タイの高校を卒業してから、日本に出稼ぎに来て日本人男性と結婚した母親の元に来たのだ。未成年だと定住者のビザが出やすい。タイ人達は「母に従ったビザ」という言い方をしていて、タイ人の移住の次世代にはこういう子達も含まれることになる。私も何人か知っているが、このくらいの年齢の子の適応は外的条件に相当左右されると思う。まずは親の姿勢。学校に行かせるかどうか。私が生活支援ということで関わっている高校の女子2人は、たまたま各種支援を受けられて当人達もがんばっているが、ドロップアウトする子もいる。なんといっても言葉の壁。家では見知らぬ日本人の義父と、母との間にできた歳の離れた妹とか弟とか。母といっても「小さい時に日本に行ったきりだから顔も覚えてない」ような人であるし、日本人夫への気遣いもある。そんな境遇に放り込まれてどうしろと言うのだ、ともらい泣きしそうになる場合もある。

当地方のタイ人の場合、半端に人口規模があって、でも構成されるタイ人社会に多様性はあまりない。つまり、我が家もそうだが水商売で、我が家と違って女性が圧倒的に多い。そこにビザがある若い子なんかが来ると重宝されて当然だろう。それで若いうちから夜の仕事になるという道に入りがち。で、この男の子だが、ちゃんと日本語学校に通っていた。夫の店に来ている分には親も安心なので毎日ここで時間つぶしをする。かわいくて人懐こいので人気者になっていて、日本語ができるようになったら働いてもらってもいいよね、なんて話していたのだが。「日本語上達しない。一緒に勉強しているのは中国人や韓国人で覚えが早いし漢字でも有利」と言う。勉強にもついていけないってところか。一般的にタイの人は東アジアの人のようながんばりとか競争心には欠けると思う。私もその点タイ人に近いのでシンパシーは覚える。「そのうち友達できるよ」と言ってみても確信はない。「お母さんは何て言っているの」と聞いみる。当人次第だ。そんな質問をしている自分がおかしい。18歳のこれまで父も母もなしにきて、今になって母に相談して何になる。「タイに帰って何するの」「ブラブラ」「仕事しなくてやっていけるの」「タイだったらそんなにお金必要じゃないから大丈夫」。ブラブラかあ、なつかしい。日本で在住の外国人見て「何しているんですか」と聞いて「ブラブラ」と答えられたらギョッとするが、タイで暮らして「ブラブラしている」は公言できる地位にある。ま、それもありかな。「K(夫の名)は何て言ってた」と尋ねてみたら「日本の方がいいと思うからよく考えろって言われました」ということ。でももう明日のチケットを買ってあって日本を発つそうだ。โซคดีนะ(チョークディーナ)=元気でね、で別れた。
by kienlen | 2007-07-25 10:39 | タイ人・外国人 | Comments(0)

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