『入国警備官物語-偽造旅券の謎-』

この本を昨夜やっと読み終えた。2004年の発行と書いてあるし、買ったのもその頃だと思うが、長い間放置していた。24年間入管に勤務経験のある久保一郎さんが著者。文章の流れがスムーズでないのと、人物が単純化されているような印象でどうかな、と出だしは思ったが、これは元入管職員ならでは、という臨場感で面白かった。多分、私が人間関係の機微だとか、内面が膨らんだものよりも、社会的な部分の大きいものの方を好んでいるということなんだろうと思う。バングラデシュ人の不法入国の手段から日本における同国人を食いものにしながらのサバイバル、まあ、今でいう格差社会の縮図みたいなものか、と、入国警備官という昨今注目度があがっている部署における企業小説的な組織と権力と人間性に関わる部分との2本立てみたいな内容だ。ここで扱っているヒューマントラフィッキングの手段は、審査が甘くなりがちな日本人配偶者のビザを持つパスポートを使って1冊で2度美味しい的手段。つまり正規のパスポートがなかったりオーバーステイだったりの不法滞在者の帰国用に貸し、次の不法入国者にも貸すというもの。本人が移動しなくてもパスポート上は何度も出入国を繰り返していることになる。

これは容易に考え付く方法で、私も、夫のパスポートを顔の似ているタイ人男性に持たせて自分と子供の家族を装えば簡単じゃないかとずっと考えていた。私でも思いつく方法が普及しないはずないだろう。多分相当に普及しているんじゃないかと思うが、そうなるとこれは取り締まりのターゲットになるから難易度は高まるだろうな、と思う。この本を読みながら思い出したことがある。夫が来日当初に、タイの免許を日本の免許に書きかえるという手続きに行った時のことだ。まだ日本語がほとんどできなかったので私が同行する場面は多くて、その日も同じ。書類審査と英語か日本語によるペーパーでの確認(切り替えという建前なのでテストとは呼ばない)と運転の確認。私はクライ性格なので考えうる悪い方の事態を想定してはショックを和らげようというクセがある。が、この時は想定の範囲を超えた事態が発生した。書類審査ではねられたのだ。パスポートをチェックしていた係官が「何度も出入りしていますね」と怪しそうに言う。彼は出張で何度も日本に来ていたわけで当然。その後「免許の申請はできない」と却下された。この地で運転免許がなければそもそも仕事ができない。当時は出入国記録が多いことの何が問題なのか全く分からなかったが、この本を読んで謎がひとつ解けた気がした。
by kienlen | 2007-03-30 08:39 | 読み物類 | Comments(0)

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