『明日へのチケット』を見る

昨日は盛りだくさんの日だった。体調がすぐれないから送ってくれという息子を高校受験会場まで届け、納品や請求書送りをしてから夫の店でご飯食べようと思っていたら友達からランチの誘いがあって慌しくお付き合いして、それから予定していた映画『明日へのチケット』の上映館に行ったのだが、息子の迎えもあるので時間が気になり、携帯電話を握り締めていた。3人の巨匠監督が作っていて、その中の1人が先日見た『麦の穂をゆらす風』のケン・ローチという人という以外は予備知識なし。ただ、予告編で移民の話が出てくるという印象で行くことにしたものだ。麦の穂を一緒に見た友達がロビーに先に到着していた。これは実に私の好みにぴったりの映画だった。見た後にふつふつと満足感が沸いてくる。この満足感というのは、日常的に毎日どころか、一瞬一瞬に味わう悲喜こもごもを凝縮したようなものなので、映画に日常からのトリップを求めたい人が見るとどう感じるのかな、という興味はある。私は宇宙や未来世界よりも内側へのトリップに興味があって、それも小さな自分が把握できる程度の深度が安心できるので、このような描き方はしっくりくる。友達と「良かったねええ」と感動に浸っていたら、偶然同じのを見ていた知り合いが通りかかり「ちょっと…」と不満が残った感じの言い方だった。

舞台は、回想シーンを除けばローマ行きの電車の中のみ。国際列車というのはタイにいる時に何度も乗ったので、ヨーロッパとアジアの違いはあれど、いろんな国の人がいて、乗り合わせた人と話したりという場面が容易に生まれるところは懐かしい。電車が好きなので、舞台がそれだけで嬉しくなるし、同じく飛行機だとそれだけでもうマイナスになってしまう自分である。電車の中の3つのエピソードであり、特に笑わせる場面があったり胸が詰まる場面があったりするわけではないのに、なんでここまで退屈なしに見られるのか不思議なくらいだった。でも最初の場面からワクワクさせてくれるし、どの役者も素晴らしい。印象的だったのはイタリア人男性の女性に対する姿勢で、理不尽なのが女性の方であっても、見ているほうがイライラするくらい紳士的に接すること。これは日本ではあり得ないだろうな。「このババア」でおしまいだろう。私も運転していてそう怒鳴られたこともあるし、だから日本の男性は…、と極端な悪例から直結してしまう単細胞です、という反省もないまま今に至っている。最後が移民の話。これは秀逸だった。スコットランドからイタリアへサッカーの試合を見に来た高学歴高収入でない若者3人が移民家族と遭遇するハメになって自分自身の葛藤、仲間内の葛藤、どれもこれも私にとってはすべて納得できるものだった。終わり方も良かったな。希望だけでもなく絶望だけでもないけど、すごく微細なものから日常が成り立っていて、どこに自分の視線を向けるかが広い世界に向かう時にも関係してくるんだろうなと、当たり前のことを当たり前に感じさせてくれた。これも「ありがとうございます」と思った映画。
Commented by jun at 2007-03-08 11:50 x
本当に盛りだくさんでしたね。外界へも内面へも電車の速度で世界旅行なんて素敵です。
Commented by kienlen at 2007-03-09 09:25
外国は行きたいけど飛行機は嫌いなので、電車で国境を越えられる国に住みたいです。タイはその点いいんですが、今のところシンガポールまでの南の線のみ。早くカンボジアやラオスやミャンマーに鉄道が通じるといいですが。
by kienlen | 2007-03-08 10:02 | 映画類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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