『麦の穂をゆらす風』を見る

シネコンでビールを買ってロビーでちょっと飲んで、それを持ってちょうど入場しようとしていたら携帯に友達からメッセージが入った。私の反応を聞いてから最終日に行こうかどうか決めるらしい。感想を教えろと書いてある。それは賢い。この映画を勧めてくれたのはアイルランドで学んだ大学の先生だった。私の場合は、アイルランド情勢を知っているわけではないので、どこまで分かったか心もとないが、ひと言で感想を述べよ、という問題が出されたら解答欄に書くのは「残酷な映画でした」である。殺しのシーンがあれば殺される側に、拷問シーンがあればされる側に、犯罪シーンがあれば被害者側に感情移入するだけでなくて、どっか痛くなるくらいだから、残虐なシーンがあるのや戦争ものや人が死ぬのは苦手なのだが、かといってこれがない映画ってあんまりないから我慢している。ただこの映画の残酷さはそれじゃなくて、とってもリアルで「これは映画なんだから」という言い聞かせが効かないという意味での残酷さ。そもそもは、イギリスの映画ってアメリカ映画のような過激な場面がなくていいな、という勝手な誤解をしていたから、それが裏切られた衝撃で残酷さが倍増してしまったのだと思う。

1919年から話は始まる。アイルランドの人々を弾圧する英国軍に抗するIRAと後方から支援する人々を描いている。だから始まりの構図はシンプル。複雑になるのは、和平条約に調印するかどうかのあたりからで、共和制であるはずなのに、国王を擁する英国の一部であるという条件には徹底してNOという立場と、英国軍の撤退も実現することだし、まずは条約を受け入れようという立場に分かれる。そしてその後がますます残酷になるのだ。ありがちな展開だから意外なわけではないが、紳士然とした人々の風貌と、仕立ての良さそうなスーツとコート姿で武装して闘うという姿が、自分がもっていた戦闘イメージの貧困さを教えてくれた。このところ見た映画では『白バラの祈り』とか『ミュンヘン』を彷彿とさせたが、このふたつがやけに映画っぽいと感じてしまったのはなんでだろう。最後の最後まで救いがないからか。それと、人間像がリアルなのだ。もしかして実話なのかな、何も調べてないから知らない。でも1番思い出したのはブニュエルの『忘れられた人々』っていう映画だった。残酷で笑いが皆無で、でも人間ってこうなんだろうなって納得できるような気がするって意味で。
by kienlen | 2007-03-02 00:49 | 映画類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


by kienlen
プロフィールを見る