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『法とは何か-新版-』を読む

やるべき事はあったが、休憩で本を読み始めたら面白くて最後までいってしまった。おかげで「べき」の方が後回し。自営の利点って、こうして時間配分を自分で決められることくらいだから利用しない手はないが、過剰利用すると「べき」を全部失う危険があるから、ささやかに本1冊程度にしておこ。読んだのは渡辺洋三『法とは何か』。法の精神とは何か→それは正義であるから、この問いは正義とは何かに置き換えられる→しかし正義とは何かは難しい、という出だしからいきなり引きこまれる。で、ここに流れる正義が共感できないものであれば最悪なのだが、それに納得できて、緻密でバランス感覚があって柔軟で、基本以外にアクチュアルなテーマも踏まえている大家の先生、となれば感動モノであり、これはそうだった。日頃から疑問に感じていた事が、疑問に感じてもいいものだったんだと知ると泣けてくる。ちなみにこういう感覚を味わえるのが、ほとんど本でしかないという日常をどう評価するかだが、本の面白さを味わわせてくれてありがとうってことにしとこう。

それで日頃の疑問って何かということだが、いろいろあって、この本にそのいろいろが登場する。例えば「地方分権」という言葉。ウチの息子も社会でやっているのかよく口にする。その都度「ヤナ言い方」と思うが、根拠を示す知識が不足なのと、この言葉があまりに善人顔で堂々としているので、疑問の提示がしにくい。それに「断定するなら自分なりでいいから根拠を示せ」と言っている自分は、こういう時に俄然と弱くなるのだ。が、この本に出てきた。国と地方自治体の関係は上下ではないのだから、国が分権してあげますよ、みたいでおかしいという疑問は感じてもいいのだった。しかしこれを言って息子の社会のテストの点数がこれ以上下がっても不利かと思うとジレンマ。あとは、重大な事が閣議決定とか審議会で決まっていくことも、法律にのっとっているんだから疑問の呈しようがないんだと思っていたが、実はそんな事はないのであって、著者的正義では、現状の方がヘンなのだ。制定された法律が正義であるとは限らないし、法の解釈はいかようにもできる。ということまでは多分誰でもイメージできるが、問題はその先で、その根拠は?という時に役立つのがこのような本だろう。実は内容への疑問点もあるけど、それは差し引いてもジェンダーや女性の労働の現実への目配りなど、この年代の方で、研究者の方にしては素晴らしいと思った。
by kienlen | 2007-02-10 20:48 | 読み物類 | Comments(0)

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