『真実無罪』を読み終えた

宮本雅史『真実無罪-特捜検察との攻防』を今朝読み終えた。このところ読書時間が取りにくくて日数がかかってしまった。KSD事件で受託収賄罪に問われた、村上元労相が逮捕される前の様子から、起訴されて裁判になって、それから有罪を不服としての控訴審までの様子を描いたノンフィクション。検事調べと法廷でのやり取りに焦点が絞られていて、緊張感あふれる密室劇みたいな読み応えがあった。この事件は、当時の「ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団」の古関元理事長が当時の参議院議員の村上氏に、ものつくり大学構想を進めるために賄賂を贈ったということで、確かマスコミで取り上げられていたのは記憶があるが、事件の内容をよく知っていたわけではなかった。私が興味をもったのは、事実上外国人労働者の受け入れ手段のようになっている「研修生制度」が、KSDの働きかけで中小企業にも門戸を広げたという面があるからで、実はそのへんへの言及も期待して読んだのだが、村上氏の側からの描写がほとんどで、この件は対象外。

帯の一部にある「日本の司法制度の中で、無罪を証明することは可能なのか」が基本的なテーマと思われる。これは検事との会話体のやりとりで描写されているので、緊迫感がある。信用する弁護団という、溺れる者にとってのワラ以外を失った被告人が、終始一貫無罪を主張をする上に、弁護団の徹底的な検証で、検察の供述調書の問題を証人や新たな証拠品と共に指摘したにも関わらず有罪になる。それがなぜか、をいろいろな角度-例えばマスコミの対応、検察内部の事情、関係者個人の資質等々-から、声高にではなく示しているのがいい。著者は、村上被告の無罪を信じるという立場であることを明言して、被告人に寄り添った著述を貫いている。これを読む限り、その通りだと感じてしまうが、反対側の立場のも読んでみたいものだ。4年がかりの取材だったということだが、確かに力作。

佐藤優は『国家の罠』で、政策の転換期に起こる国策逮捕という位置付けで経験を書いているが、彼の場合は当事者であり、検事とのやり取りも自分の事なのだが、この本は関係者への取材と供述調書で再現しているのだから、大変な作業だろう。しかし、いずれにしろフラストレーションは拭えない。それは、ホントは何が起こっているのかが、分からないからだ。このところやけに気になるのが、殺人事件等で逮捕者がでると、いきなり初報から「殺意について調べる」とかいうコメントが入ること。警察はこれに重点を置くから、そういう発表があって、そのまま報道しているわけね、というのがなんだか見え見え。警察にしろ検察にしろ、発表は捕まっている側ではなくて一方的に権力の側からなされるのだということは、情報の受け手の側が常に意識していないとならないと思うことだ。
by kienlen | 2006-08-12 12:42 | 読み物類 | Comments(0)

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