『松本清張と昭和史』を読んだ

保阪正康『松本清張と昭和史』を読んだ。昔、昔、若い頃なので内容を覚えているわけではないが、1人の作家の作品をこんなにたくさん読んだのは松本清張だけだ。なにしろ文庫本でずらっと並んでいるし、つまらないのがないので、本屋に行って迷ったら松本清張の何かを選べば良くて重宝した。『砂の器』は最も好きな映画のひとつ。これは、元日活の助監督だったという友人の推薦作で、バンコクの一部屋だけのアパートで見せてもらったことがある。その友人のタイ人の彼女がベッドの上で所在なげにしていたことも、なんだか作品の陰影を深めているように感じた。しかしこういう状況での映画鑑賞で泣けるのは、もっと所在なげな気分になる。そんなことがあったのと、名前だけは知っているけど全然読んだことがない著者を何か1冊と思っていたところに書店で見つけて買ったもの。面白かった。

清張のを何冊か読んだといっても、ミステリー小説ばかり。この本が取り上げている『昭和史発掘』も『日本の黒い霧』も読んでないのだから、これを読む前にそっちを読んでおくべきなのだろうが、そんな浅薄者にも分かるように解説してくれているのがありがたい。第1章が昭和前期と『昭和史発掘』、第2章が「2・26事件」に収斂された昭和前期、第3章が昭和中期を暴いた『日本の黒い霧』という構成。つまり、2・26事件に至るまでの動きと、敗戦後の占領下の怪事件を取り上げた2作品を、著者の1人称で評論するもので、引用から清張史観の独自性を紹介し、批判者の論を少し紹介し、著者の考えを示し、清張史観に影響を与えていると思われる清張の個人史も描かれる。学問でもなくジャーナリズムでもない、「時代の記録者」としての清張の後継者という位置に自分を置く視点から書いているのだが、その距離感が良かった。新書なのに濃い内容で正義感あふれるいい本だった。
by kienlen | 2006-07-26 22:35 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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