『プラハの憂鬱』

佐藤優著。好きな作家を読み込む、というタチでなくて脈絡なし読書なのだが、もし冊数が最も多い人をあげるとすれば佐藤優かな。若い時の松本清張を除けば。でもここしばらくこれはと感じる引っかかりがなくて遠ざかっていたところ、友だちが佐藤優講演会に行って良かった話をしていて、その足で図書館に行ったら偶然これがあったので借りてみた。もう素晴らし過ぎて脱力。このまま本の中の世界に留まっていたい感じだった。昨日は松本行きだったので暇にまかせて周辺で遊んでこようかと思ったけど、この本読みたくてギリギリまで家にいて、読み終えたので出かけた。しかしこれって小説なのか実話なのか、まあどっちてもいいのだけどあとがきから想像するにパーツはほとんど実話で構成で脚色している印象。チェコ人の神学者フロマートカの研究をライフワークにしようと学生時代に決め、そのための方策のひとつとして外務省に入り、ロシア語の語学研修先だったロンドンで冷戦末期に当たる1986年から1年2か月学び暮らした日々の様子を綴ったもの。日々の様子で何を思い浮かべるかはそれぞれだろうけど、佐藤優でなければあり得ない日々ではある。そもそも神学部から外務省に入る人自体が世界的にも稀有であるらしいのは英国での色々な人とのやり取りからも察せられる。

ロンドンでチェコ人亡命者が営む古本屋に行くところから本格的な物語は始まる。外交官の卵の著者は店主の博識に、店主は店主でこの日本人の博識に驚き、信頼感をもつ。この店主が元はBBC勤務の亡命チェコ人。ここからチェコという小国の立場、そこから形成されるチェコ人の性格などが語られ、同時にイギリス人とは、ロシア人とは、外交官とは、亡命者とは、亡命者と反対に自国に戻ったインテリは、帝国とは等々が語られる。これを会話で行うので分かりやすくだれない。一語一語に当事者ならではの微細な感情が絡んでいて本当に刺激的。チェコ人がなぜ懐疑論になるのかも、なるほどー。で、ちゃんと、ここでいう懐疑論とは何かの説明も的確になされている丁寧さ。これは一例で、抽象的な用語は一般向けの説明が物語の中に入れ込んであり、読みやすさを考慮した分かりやすい構成になっている。登場人物それぞれから人間とは神とは、人間関係とは、国家関係とはまで網羅的なスケールで思考しながら伝えている。獄中記くらいに感動しました。素晴らしい。

Commented by jun at 2016-09-04 06:49 x
ウェブ上だと朝風呂に浸かりながら読書会もどきが出来て贅沢な気分です。たとえそれが掃除がゆきとどいていないウチの風呂の中でも。『プラハの憂鬱』は電子ブックのサンプル、所謂立ち読みで見始めたところ面白過ぎます。それは佐藤氏の同志社時代の遍歴と時代の考証、思考、思想が刺激的だからでしょうか。加えて個人的なことですが、私の恩師が佐藤氏の時代の前に同学で教えていました。当事の学生は私学でも無鉄砲とも言える気概があったそうで、京都ならば京大何するものぞという雰囲気があったと聞きます。学生運動の時代にも新島襄の建学の精神があったのでしょうか。ちなみに新島先生は20歳の頃、漢訳の聖書を読み感銘を受けあの時代により深く学びたいとアメリカ合衆国に渡った、と伝記にあります。いつもながら良い本をご紹介いただき、ありがとうございます。プラハ市民が愛したと言われるモーツァルトの交響曲第38番「プラハ」も先程偶然NHKから流れていました。
Commented by kienlen at 2016-09-04 12:43
junさん、朝風呂派ですか。私もです。図書館の本でいいなと思うとまたちゃんと読まなくちゃと思って買うことがあってこれもそうしたいんですがさすがに我慢。
by kienlen | 2016-09-02 10:23 | 読み物類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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