『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?』

しばらく前に買って積んでおいた本。やたらに本を買える状況でなくなり、あるのを消化しつつ図書館利用しつつ、時々買っている。400ページを超える結構な大著でなかなか取りかかれなかったが、読んでみたら実に面白い内容だった。著者は元長距離選手のスポーツジャーナリスト、アメリカ人。「スポーツ遺伝子」のようなものがあるかを探るため、それこそ膨大な科学論文を読み、科学者に取材し、選手とか家族にも話を聞き、さらに歴史的、人類学的な視点もいれ、多面的にトップアスリートを分析している。知っている人は知っているのだろうけど、自分にとってはもう本当にびっくりの連続だった。野球とか球技のトップの視力が測定不能なくらいに良い、というのは、ありそうくらいに思えるけど、生まれてこのかた自分の性別を疑ったことのない女子アスリートが性別検査で男と判定されてタイトルはく奪されて奨学金ストップで恋人とも別れてとなり、納得できない当人が奔走して実は人間を男と女に分けるのはそう簡単な問題でないことを知るというあたり、性別判断は難しいと漠然とは知っていたけど、細かく説明してあって、なるほど、だった。同様に、ドーピング検査といってもシンプルでないこともよく分かる。いやあ、なるほど。

構成もとってもいい。エピソードから入るので素人にも理解しやすく、専門的な内容は比喩で易しく解説。考察は多面的でバランス良くて、シンプルに結論がでるものでないということをあちこちで強調。章ごとの長さも適度。たっぷり書いているため説明不足のストレスなく、かといって過剰のストレスなし。ジャマイカが短距離で圧倒しているのに長距離では強くなく、ケニアはその逆で中・長距離専門。これがなぜかというのも、おお、なるほど。ジャマイカの歴史や言い伝えも興味深かった。犬のブリーディングの話と、中国で長身の子を産むように背の高い人同士を結婚させたエピソードを読んでバレーの試合を見ると、うむうむ。ドーピング花盛りだった70年代が一番記録が伸びていて、その後はそうでもないこと、なるほど。マラリアから身を守るためらしい遺伝子と筋線維の話など、ほほう。アスリートの遺伝子を調べるということは、人間が環境に適応しながら今日まで生きのびてきた歴史を見ることでもある。何から何まで面白かった。アフリカに行ってみたくもなった。大当たり本。

Commented by jun at 2016-08-22 22:11 x
そんな良い本で大当たりな名著があったのですね。知りませんでした。福岡伸一さんや齋藤孝さんなら読んでいそうですね。
天使が「舞い降りたリオ今」(回文)という感じで、丁度今日オリンピックの閉会式でしたので、相応しい本と話題に感激しました。私は近所の喫茶店でボサノバを聞きながら胡桃をつまみに赤ワインを飲み、深酒を避ける為にマンダリンの粗びき珈琲で終えた今夜でした。kienlenさん、おやすみなさい。
Commented by kienlen at 2016-08-22 22:24
junさんこんばんわ、じゃない、おやすみなさい、ですか。読むなら貸しますよ。
by kienlen | 2016-08-21 21:03 | 読み物類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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