『中世を旅する人びと』

これはこれはものすごい面白かった。さすが阿部謹也、といってもそんなに読んでいるわけではないけど好きなひとり。風呂にも枕元にも、本棚とか机の上以外の本が読みかけのままたまっていて、これは枕元の塊の中にあったもので、1,2ページ読んだままになっていたのを気合入れて読み始めてみたらすごく良かったので今回は読み通した。なるほど、な箇所ばかりで、いちいち鉛筆で線引いていたら線だらけになってしまうので途中でやめた。この間チェコの歴史物語を読んだ時に、ひじょうに面白かったけど、当然のことながら為政者側の視点しかなく、庶民のことを知りたいなと感じていた、その部分にはまった感じ。「近代学問の概念といえども多数の庶民の生活を根幹として成立しており、そこからのみ抽象が許されるのである」ということで、その庶民のありようを各種資料から浮き彫りにしてみようという試み。「社会経済史の研究成果に民俗学の成果をとりいれながら」ということ。

まず道とか川とか橋の話がある。それもまだ都市が成立する以前の話なので舞台は農村ということになる。すると農法との関係が重要になってくる。中世ヨーロッパ農村では三圃農法といって、耕作地が毎年移動したのだそうだ。日本の水田だとほぼ恒久的に畔で区切られているのと根本的に違い、耕作地が移動するのだから道も年ごとに新たに設定される。もうこれだけで目からうろこって感じ。こういう小さなことが世界観形成に与える影響って強いと思っているものだから、全編ワクワクの連続。道の項の結びはこう。「道路政策が中央集権的方向において展開されるのと同時に村落内部の共同体規制がゆるみ、かつて街道と村内の道をへだてていた異なった原理がひとつのものになってゆく。そのとき、中・近世における社会諸集団の自立性が破れ、個々人が市民として国家に直接掌握される道が開かれることになる」。ドイツの職人の遍歴強制の話しなんか包丁一本晒に巻いて…の世界だあと思ったり、面白いのなんのって。次のヨーロッパ旅行の準備本としても最高だった。これもしかして旅先読書用に求めてあったのかもしれないが、ちょっとそれには多少重厚感もあるかなとうところ。浮浪者、乞食、ジプシーの話も良かった。


by kienlen | 2016-05-22 11:41 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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