『死の棘』

島尾敏雄のこの本は、タイトルだけは昔から知っていて読んでみたいという興味をもってはいたけど、読んだことがなかった。もう、そんなのばっかりで100冊は軽くいけるぞ…な気分で行きつけの古本屋にて文庫購入。この古本屋はいつもこっそり行っているのに、店主から店外で声かけられた時はびっくりした。ま、そんなに大勢の客が押し寄せるとも思えないけど。読み始めてすぐに挫折しそうになった。読書会の課題図書だったのでチャンスと思って買ったわけだが、一時期の暇よりは手持ちの暇の質が変化してしまっているのと、評価の高い名作はさすがに満足感は深いけど、今のもちょっとは読まないといかんでしょうという、完全に引退の身でない立場としては…と思ったりもして、そうなると何かを捨てなければならない、そうなるとこういう類かなと感じたのだった。

でもそんな消極的な気持ちでは、この巧みな文章運びから逃れられない。すごいすごいと思いながら時間をかけて最後まで読んでしまった。そして、昭和30年の夫婦関係の一種を描いたものではあるけど、ひじょうに現代的というか普遍的だと感じた。夫の女性関係の微に細にと入り込んでくる妻の狂気と、それに徹底的に付き合う夫の狂気が心の底まで突き抜ける勢いで延々と描かれる。巻き込まれる子どもたちも。日ごろから、恋愛感情ほど人を狂わせるものはないなと感じていて、だからこそ種の保存ができているんだろうけど、文明社会にあってはかなりなリスクで、社会生活が営めなくなったりもする。それで社会生活を営むために感情をコントロールするのが大人の対応なのだろうけど、そんな必要ないと腹を決めたらどうだろうかと想像すると、突飛なありようでもない気がする。ちょうど読み終えた時に、愛憎セットを何十年もひきずっている友だちと会い、憎の方の急速に膨らむ様子に鬼気迫るものがあった。それでこの本を勧めておいた。


Commented by jun at 2015-11-16 13:42 x
面白そうですね。お友だちに勧めるというのも面白いですが。読みたくなりました。私は課題のフォークナーをまだゆっくり読んでます。400ページ以上の本でやっと100ベージ。原書は諦めて加島祥造訳を図書館で借りました。wagonが「馬車」だとか、reckonが「思う」だとかshaがsureと同じだとか、基本的なところでつまずきました。でも作家の類似性に気付き興味は持てています。人間は個別だけど普遍的なものだと当たり前に思いました。
Commented by kienlen at 2015-11-16 20:22
junさんも読んでないですか。とても面白いですよ。結構長いですが、止められなくなります。お勧め。私フォークナー読めるか自信ないです、まだたった5ページですもん…。
by kienlen | 2015-11-15 21:55 | 読み物類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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