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『黒い迷宮』

副題は「ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実」。500ページを超す大著で値段も2300円+税という、シンプルにいってよくある本の2倍のボリューム。あまりの面白さに止められなくて昨日はこれを読むのでほとんど1日費やしてしまった。2000年に起きたルーシー事件というのは、ぼんやりとしか知らない。当時すごく興味を持ったという記憶もない。子どもが小さかったし、テレビを見なかったし、欠落が大きいせいかもしれない。しかし知らないことばかりで、一体何をどうやって生きているのかと自分に対して感じる。もっともニュースを見ていたところで真相は分からないわけで、だから本の素晴らしさを毎回感じるわけだけど。膨大な資料と膨大なインタビュー、それぞれに出典を明らかにして細部まで逃げずに描いている。すごい。そして最もいいのは、人間の物語であること。それと、著者がイギリス人なので日本の慣習や制度を外から見るとどうかというのがとても興味深い。日本の警察の動きというのは、犯罪関係のノンフィクションを何冊も読んでいる限り、同じ問題的が指摘されている。

水商売(とは何かについての考察もかなり詳細)の外国人女性が客と出て行っていなくなった。一歩間違ったらそのまま埋もれてしまう出来事で、多分そういう例は少なくないはず。それを大事件にしたのは、被害者の父と妹で、その手法は参考になる。イギリスならではなのかどうか、タイにいた時に、若いイギリス人女性が麻薬を持っていたということで逮捕されたのに、イギリス政府の圧力で国に戻された事件を思い出した。何が真相なのか分からないけど、日本政府がそれをしてはくれないだろう、と強く感じた記憶はある。で、ルーシーさんの、離婚している父母、きょうだいの人となりが冷静に細かく描かれる。イギリスの階級社会がどんなかの紹介にもなっている。とにかく細部はすべて関係しあっているわけなので、何でこうなるのっていうストレスがない。加害者の成育歴等にも極力迫っているが、そのおかげで特異さが際立っている。そして結局判決も異様なものとなった。異様という言葉が頻出していた。それにしても本っていいなあ。感動した。
by kienlen | 2015-06-17 08:39 | 読み物類 | Comments(0)

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