『冬の鷹』

吉村昭著。はあ、すごーく面白かった、感動。仕事場の模様替えも、今週中に読んでおかないといけない本もさておき、止められなかった。4冊目になると多少は作家の意図が分かる感じになるが、やっぱり主人公は似ている。自分の道を突きつめるというか、それしかできないような人物。この本の場合は解体新書を訳した前野良沢という人で、彼と対照的な人物として描かれるのが杉田玄白。ここまで対照的だったのかというのがまさに絵に描いたような感じ。山師のような平賀源内が出てきたり、幕府への反発から尊皇思想を説いてまわる人物もでてきて当時の世相がとっても分かりやすいのはいかにも。説明の仕方に違和感なしで実に読みやすく、どうしてそうなるのかという点で詰まる部分がない。

こういう読みやすいのばかり読んでいると、文学書と呼ばれるようなのが読めなくなるなあという実感がある。中学生でも読めるのが新聞の文章と言われたことがあるけど、それを意識しているのかってくらいに平易。それと違って文学って何かって、きっと説明しないことなんですね、単にそう感じるということだけなんだけど。で、吉村昭という作家がどういうカテゴリーなのか知らないが、権力を持つ者と持たない者と固定性とか流動性とか様々な要素が、かゆいところに手の届くように丁寧に描かれている。それにしても自分、ここまで歴史を知らないのが悲しい。でも、そのおかげでこういう本を心から楽しめる。こういうことって人口に膾炙していることなんでしょうか。それも知らないのだが、知らないというのは幸せなことではある。異文化とか翻訳という自分が特に興味のある分野だったのも余計に面白かった。
by kienlen | 2015-05-05 10:08 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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