『信州に上医あり―若槻俊一と佐久病院』

岩波新書のこの本、いくらなんでも存在は知っていたけど南木佳士が書いていることは知らなかった。これも自分が日本にいない時期の著。医師で小説家が書いた医師の評伝といえば海堂尊のも読んだことがあるけど、こちら、大変良かった。若槻俊一がいかに偉大だったかは、自分でさえ名前は知っていることから想像できるが、だからといって具体的には知らずにきた。医者の世界ってご縁がないし、きっかけもないまま。小説はこの評伝を書くための修行みたいなことが書いてあったが、なるほどと思う。タイの、カンボジア難民キャンプを経験したことで若槻が農村医療を実施しなければならないとした時代を感じることができるようになったという下りは、分かるなって感じ。

あと面白かったのは、上州人と信州人の違い。作家は嬬恋村出身とのことだが、ちょうどその辺りに一時期通っていたことがあって、山のあっち側とこっち側というだけの違いなのに人間性が随分と異なるという印象をもち、しかしそれだけじゃあ言い切ることもできないしと感じていたところに、この作家がはっきりと違うと断言しているのに爽快感みたいなのを覚えた。つまり若槻俊一が活躍できるには、彼のような人を受け入れる土壌が必要であり佐久はそれにぴったりだったということ。若槻と関西じゃあ合わないだろうという例を出していた。評伝を読んでいると、人が生かされるというのは不思議なものだとつくずく感じる。評伝は書く人の視点の入り方がとっても面白い。読むきっかけを与えていただきありがとうという感じ。別に医学を目指す人じゃなくても、医学に関係なくても引き込まれるとてもいい本だと思った。広い意味で、ごまかしのない生き方をしてないと書けない内容だろうな。
by kienlen | 2013-10-22 08:56 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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