『冬物語』

南木佳士の3冊目。ひとつを除いてすべて文學界に掲載された短編とのこと。なんか、すごく良かったなあ。かなり似たような設定なのでまとめて読むと飽きるかと思うけどそういうこともない。文学作品というものを普段読みなれていないせいか、丁寧さが心地良い。それに、出てくるのがこれから死ぬ人か死んだ人であるとはっきりしているから嘘っぽくない。はい、その通りですから。迷いがないというのはつまり安心感につながるわけだ。そのへんにあふれている安心安全は全く信用できないまやかしだけど、ここに出てくるような安心は信用できる。

どれも良かったが、特に印象に残ったのは「木肌に触れて」。主人公の勤務する総合病院で胃ガンと診断された老女が「楽に死なせてくれる所があるから」と転院を希望し、紹介状を書く。このあたりのちょっとした葛藤も何もかも程よい程度と同感できるが、ふらふらとその怪しげと主人公が想像する医師を訪ねて森の中に行き、その医師と会って話す内容も描写も本物っぽい。このところ娘との話題がこの作家で、彼女は読んでないが、先生に話したら読んでないからすぐ読むと言ったそうだ。教科書にも出てくるんじゃないかなと言っていた。教科書的でもあるなあ。正統派って感じ。端正で麗しいというか、芯があるけど固くなく染み入る内容と文体。ベタ褒めというか、ここで褒めてもしょうがないので勝手にベタ惚れ。ここは気になるけどまあ留保しておこう、と感じる点が全然ないって珍しいな。
by kienlen | 2013-10-21 10:39 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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