『香田証生さんはなぜ殺されたのか』

下川裕治著。図書館でたまたま見つけて借りた理由は著者がこの人だからだった。タイトルを見た限りでは、こういう硬派なノンフィクションも書いているんだ、知らなかった、と思い、ちょっと中身を見てみて、なるほどと思った。イラクで過激派に殺害された香田さんの事件を、徹底的に旅人の視点から分析したもの。生まれ故郷を訪ね、それからニュージーランドのワーキングホリデーに旅立ち、しばらくしたら戻ると言い残してイスラエルに行き、ヨルダンでしばし逡巡したらしい描写があって、結局イラクに入った香田さんの足跡を、彼と関わりのあった人々に話を聞きながら、バックパッカーの心理と行動を軸に著者が自分と重ねながら考察しつつたどったもの。とても読みやすいのでストレスなく読める。私はバックパッカーではないが、旅先ではそういう人に大勢会ったし、バンコクはバックパッカーの休憩所みたいな面もあったので想像はしやすい。それに、実際にバックパッカーになるかどうかは別にして、自分にこういうメンタリティーがないかといえば、多分とても大きくあると思えるので、著者が自分を振り返る機会にもしたと感じられるこの本に共感を覚えなくはなかった。

ニュージーランドのワーホリがどうしてイラクになったか、という当たりは著者の考察でしかないが、説得力はあると思った。すごく良く分かる感じ。香田さんはイスラエル行きもイラク行きも内緒にしていたようで、そのあたりに何か切実感を感じて切なくなる。バックパッカーのベテランとして、著者は今のバックパッカーのありようと昔を比較したり、今の人を分類もしていて、香田さんには旧式のエネルギーみたいなのを感じるという意味で共感的に書いているのだが、読んでいて、本当にここまで自分と重ねて共感しているんだろうかという疑問が残ったな。あとは、香田さんの周辺の人が話したがらない点を結構強調していた割に、理由の考察を深めているわけではないのがどうしてなのか知りたかったのと、香田さんの人となりがもうちょっとあれば、そのあたりも想像しやすく全体にその後の行動への理解も深まると思う反面、人生を分かりやすくするのは後付であり、そんなの嘘っぽいという気持ちもある。ただもう本を読むということ自体にそういう期待が入ってしまっているのは否めない。言葉と旅の相性ってどうなんだろうか。でも面白い視点の内容でなるほど感はあったし、こういう内省的な内容は上から目線のものに感じる不快感はなく好きだ。
by kienlen | 2013-09-26 08:58 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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