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『ノン・フィクション・布川事件 檻の中の詩』

一昨日、図書館に寄ったら、佐野洋の追悼コーナーが目立つ場所にあった。えー、佐野洋って昔好きだった作家だ、と突然思い出し足を止めてしまった。ごく若い頃だったし何を覚えているというのでもないが、特に泥をかぶって生きていないその頃の若者にとっては軽くて読みやすいという印象だけは何となくあった。当っているかは覚えてないけど。大分借り手がついているのか、そもそもそんなになかったのか知らないけど、冊数はそれほどじゃなかった。で、その中にあったのがこれで、珍しいなと思って借りた。1993年発行。そうか、自分は日本にいない時だからな、色々な事が抜け落ちているわけだ。布川事件というのも、無罪決定になったというだけで詳細は知らない。全く知らない。どんなかなと思って読んでみる気になったのは、冤罪事件に関心があるというのはあるが、最初のページに出てくる詩があまりに良かったから。結局、ふたりの詩が数多く登場するのだが、それがもう泣けること泣けること。図書館の本を汚しちゃいけませんから気をつけた。

雑誌に連載していたものだそうだが、この年代でここまでの捏造があることやらちょっとびっくり。戦後の混乱期じゃあるまいし。作家の怒りもかなりなものであることが伝わってくるが、さすがに作家は読ませる、当たり前か。それが仕事だもんな。小説家ならではといえば、供述調書の作り物っぽい部分を「小説ならこうだ」として小説仕立てで解説するあたりの面白さで、内容に呆れつつこれが自分や身近に起きたらと思いを馳せつつ、権力というのはやろうと思えば何でもできるという日頃の実感を再確認しつつ、ふたりの手紙や詩の素晴らしさに感動。佐野洋もそれが決め手になって支援する気になったことを明かしている。もちろんそれだけじゃない無罪確信があったわけだけど、そのあたりの経緯や支援者についての全体像も分かるようになっていて、大変に面白い本だった。事実関係の検証に力点を置いてない理由は専門家の類書を紹介することで補っていて、一般に分かりやすくしている。文庫版では再審請求が叶うところを補足しているらしいが、単行本は却下ばかりの段階。追悼コーナーなのが残念だけど、おかげでいい本に出会ったということになった。
by kienlen | 2013-05-17 09:13 | 読み物類 | Comments(0)

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