『インモラル・アンリアル』

タイ人作家の本が面白くて次はこれを読んだ。ウィン・リョウワーリンという作家の短編集。これはこれはひじょうに面白かった。文学作品というものをほとんど全く読んでないため、何が前衛的なのかとか、最先端なのか等々は全然知らないが、翻訳がとっても少ないタイ人作家の中では、すごく前衛的に感じる。それと、農村を舞台にしたのが多い中で、こちらは近代的でタイを知らない人が読んでも耐えられるんじゃないかと思い、本好きの友人に貸してみるつもりだ。彼女なら面白がれるように思う。そういう近代社会における個人の葛藤みたいな普遍性があり、そこにタイならでは、というのがある。何がタイならではと感じるかというと、まあ日本と比べた場合だけど、やはり銃とかプロの殺し屋とかが日常的なので、日本の小説でやたらに人が死んだり売春宿で気絶するまで暴力ふるったりするシーンがやたらに多いと、なくはないだろうけど、ここまで日常に入り込んでいるという実感が得にくいのでシュールな印象になってしまうけど、タイが舞台だとまるで日常であり、そこに生と死の隣接をそう苦労しなくて描くことができるよな、という感がある。

何だか子供の頃に読んで衝撃だったO・ヘンリーを思い出すなと思いながら読んでいたら、あとがきで、この作家がアメリカ在住時にO・ヘンリーを随分読んでいて影響を受けているとの解説があった。9つの短編が載っている。最初のは、軽くて読みやすいからとっつきやすい。このあたりの選択はいいんじゃないかな。ありそうな話というか、でも面白いんだけど、父の遺産で暮らす放蕩息子の所に父の幽霊だか亡霊だか幻想だかが来て息子に色々悟すという内容。最後がちょっとおしゃれに決まっているのがどれも同じで短編の面白さかな。自分としては初めて見た形式が、上の段に黒地に白抜きで娼婦の物語があり、下の段に白地に僧侶の物語があり、これが巧妙に絡み合っていて、最後は交差しちゃうというもの。斬新に感じた。しかも奇をてらった感がなくて必然の形式であるようにさえ感じる。最後の長めのやつも面白い展開だった。文学っていいもんだなあ。今ごろになって感じているとは…だけど、遅いのは遅いでそれはそれで味わいがある。
by kienlen | 2012-09-28 09:37 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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