『大杉栄自叙伝』

土曜社という、自分は知らなかった出版社の刊。ペーパーバックという趣のちょっとカッコいい装丁。イラストもいいなあ。全体に好みだなあ。読み終えてテーブルの上にあったのを娘が手に取ってみて「軽い、どうしてこんなに軽いの」とびっくりしていた。そういえば昔のわら半紙みたいなこういう紙質ってあんまり見なくなったな。つまり、紙が厚いからボリュームの割に軽いってことなんだろう。ひじょうに読みやすく、なんとなくすらっと読み終えた。特にひっかかることもなく、たまに独特な言い回しが出てくる文体は結構好み。ここで虐殺されてしまって続きがないというのが実に実に残念。それにしても何も読んでないことに気付いた、当時の社会主義思想を直接には。手元に友人から借りた大杉の評論があるから続けて読もうかと思ったけど、タイの小説を読み始めたら面白そうで、いいですねタイ文学って感じで別のもアマゾンで注文してしまった。

ということで何か知っている気分になっていた大杉栄って、実は何も知らなかったではないか。軍人の家に生まれて右翼だったのに社会主義者になった過程が分かるかと思ったら、そこはどうもよく分からなかった。それはそのはずで、これはそれをテーマにしているとは思えない内容だから。なぜ社会主義者になったかっていう本があったよな。読んでもいないのにタイトルだけは浮かんでくる。この本では小さい頃の話から、平民新聞を発行するようになったり、女性関係でゴタゴタするあたりまでをすらっと流して書いている。いかにも雑誌の連載って感じがする。どうも、思想弾圧の緊迫感とか、地下に潜るみたいな思い込みが自分にはあって、でも、こういうのを読んでいると、それどころか、あっけらかんとした雰囲気が伝わる。それでふと怖くなるのは、きっと突然ぐっとくるんだろうなってことだ、何かがある時は。ヒタヒタという足音が聞こえたって、そこまで来ているのかどの辺にあるのかまでを正確に知るのは難しい。そういう点で後世になってからテーマを設定して書かれたものとは異なる当時の空気感みたいなものが新鮮。そんな意味で面白かった。
by kienlen | 2012-09-10 11:14 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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