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『サバイバー-名将アリー・セリンジャーと日本バレーボールの悲劇』

スポーツジャーナリストの吉井妙子著。バレーボールの話しがもっと出てくるのかと思って読んだら違っていたけど、すごい本だった。良かった。アマゾンで見つけて中古で購入。目次を見ると何の本かと思う。第一章のネバーギブアップは、スポーツものらしいサブタイトル、でも次のゲットー、ホロコースト政策、それにアンネ・フランクまで出てくると何の関係があるのかと疑問符。それからユダヤ人収容所のひとつのベルゲン・ベルゼン。次に解放後があって、最後の章がバレーボール界の知将となっている。つまり、セリンジャーというバレーの指導者はホロコーストを生き延びたサバイバーで、この本で主に描かれているのは収容所の様子で、その中でアンネ・フランクとも接点があり、で、サバイバーであったことが組織や権力や法律への態度にどうしたって影響を与えるということで、実に納得できる話しだった。

映画「ミケランジェロの暗号」でユダヤ人の富豪がどうやって生き延びる工夫をしたかが、こちらはここまでやっていいのかなというユーモアを入れながら描かれていたが、それを思い出すような裕福なユダヤ人家庭で生まれたのがセリンジャーで、親は、ネットワークや情報やお金や知恵を駆使して子供を生き延びさせようとする。このへんの術もすごいが、ナチスのすごさは、一応今までもいくらか読んだり見たりはしたけど、すご過ぎ。母と一緒に生き延びた後で子供のセリンジャーはイスラエルで育つわけだが、このあたりの様子は、イスラエルについて知らない者には新鮮だった。キブツも、名前と集団農場みたいな程度の知識しかなかった。軍隊でも飛びぬけた力、セッターとしても活躍。アメリカで身体について徹底的に学び科学的な指導法で、率いるチームを片っぱしから強くする。それでダイエーの中内社長に引き抜かれるのだが、日本に来てからの、いかにも日本的な文化が実によく描かれている。この人が日本男子バレーの監督だったらいいのに・・・。たくさんの要素がうまく絡んでいて、重厚だけど読みやすい。すごく感動した。
by kienlen | 2012-04-15 09:14 | 読み物類 | Comments(0)

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