『ダルフールの通訳-ジェノサイドの目撃者』

図書館で目に入って借りたもの。途中でやめられなくなって昨夜一気読み。ダルフールがどこで何が問題なのか、ほとんど全くの無知である。ただ、ダルフール紛争、聞いたことがあるような…というところ。アフリカのことは実によく分からない。断片的には、イギリスやフランスが勝手に国境の線を引いたことが今日の混乱の元のひとつの要素であるとか、資源を巡る列強の思惑があるとか、中国のプレゼンスが大きくなっているようだとか、新薬の人体実験の場らしいとか、死の商人の跋扈する地であるとか、そんなことくらい。そもそもどの国がどこにあるというのもよく分からないどころか、国の名前さえ知らないのが多い。ここまで知らないと、知るきっかけが難しい。というような者にとって格好の入門書になると思う。著者はスーダンのダルフール地方出身。村が次々に焼き討ちにあう中で著者の村も。それから各国のジャーナリストの通訳となって危険地帯に入っていく。体験を書いた本のありがたいところは、現象にかかわって背景説明があることで、村の焼き討ちの凄惨な状況を描写する一方で、村による対応の違いとかその理由とか、こんなこと絶対に当事者じゃないと分からないという細かい説明があることで、しかも当事者目線なので不快感がない。この本を涙というか嗚咽なしに読める人がいたら、そうやって生きる術を教えてもらいたい。

体験本でストレスになるのは、当然のことながら体験していないことをどう扱うかなのだが、不幸なことにこの著者は現場を見ているだけじゃなく、何度も危機があり、生きているはずがないというところまで行っている。こういう人の存在を知る時、人には生まれてきた意味と役割があるのだということを感じないわけにいかない。一口に、アフリカが部族社会であるという言い方はよく聞くが、それがどういう意味か分かりにくかった。これを読んで少しイメージが膨らんだ。植民地が突然「国」になってしまったことで起きる問題、それにしてもここまでやるかという人間というものに対する疑問、ダルフール地方の民族的な諸相と、「大地」という代名詞が喚起するのにふさわしいアフリカ的(なのか)な熱い人間関係などなど、事実の羅列だけでも圧倒されるのに、本の目的の「世界に状況を知らせる」ための分かりやすさへの配慮も抜群で、しかも死の直前にあってのユーモアと友情にも希望を感じるし、文明をもった動物としての人間らしさというか、抽象的に偏らない人間らしさを文字だけで伝えることのすごさもあった。そして日本は島国であることをまた感じ入る。アフリカに魅せられる人の気持ちも分かる気がするようなものだったが、もっと安心して魅せられる日が来るといいのに。
by kienlen | 2011-06-14 08:59 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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