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鶴見良行『アジアの歩きかた』

旅先にどれだけ本を持って行くかを決めて鞄に入れるのは、一番手間取る旅の準備。この間のバンコク行きでも同じだった。就寝前読書用が絶対に必要。機内読書用も絶対必要。それとタイの場合は入管で待たされる可能性が高いので立って待っている間の読書用としても考慮。あんまり簡単なものだとじきに読み終えるから何冊も持参しなければならず重たくなって非現実的。かといって1冊持参したら1週間もつなんてくらい難しいのを、旅先で読む気にはなれない。あとは重量的に重たくない本。そして旅先で処分してももったいなくないのがいい。友人に会うのならくれちゃえばいいのだが、今回はその予定はなかった。前回は翻訳の仕事をしているタイ人の友人にやって大変に喜ばれたけど、今回は日本語の本を喜ぶタイ人に会うなんて予定はない。そんなことを考えながら本棚を見渡して古い古い、友人から譲り受けた村上春樹の『村上朝日堂』と一緒に『アジアの歩き方』を入れてみた。こちらも古い文庫本。鶴見さんのはバナナの本とかエビの本とか、存在はもちろん知っているがちゃんと読んだことがない。なんとなく今になってわざわざ探して買って読むのも…などと思っているうちに読まないままにきている。そんな感じ。そもそも「今になって」などと思うこと自体が傲慢なのに。

それの代わりにこの本。80年代の本だし、アジアの状況も変わっているしなあ、などと思いながら特に大きな期待もなしに、機内で読み始めてすぐに「当たり」を確信した。この程度の気持ちで読んでは申し訳ないような気分になる。かといって力の入った内容でもないので旅先の本としても悪くない。あちこちの雑誌に発表したものをまとめた本だから項目ごとに独立しているのは、旅先本としてふさわしい。旅先で旅先の見聞より本に夢中になるんじゃあばかばかしい。ともかくそんな感じで読み始めたのだが、就寝前には村上春樹のエッセイの方を読んでいたからこっちは往復の機内用になり、読み終えることができず、家に戻ってから読み続けた。いい本だった。学者であって一般に読みやすい文章で書いてくれるというのは一番ありがたいと常日頃思っているが、その通りの本。30年近く前の内容ということになるが、フィリピンやインドネシア社会の基本解説になっている部分もあり、何年たっても古くなるということはないように思う。「東南アジアをみるときの、一種の思想みたいなもの」と書いてある通り、見方の一種を提供してくれる。今から読んでも遅くないというか、そんな風に感じた。小学生の子どもに鶴見さんが授業をしている場面の記録も感動的だった。処分できない本が増えてしまうのも困ったものだ。
by kienlen | 2010-08-14 08:49 | 読み物類 | Comments(0)

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