高橋秀美『からくり民主主義』

文庫で読んだ。こういうタイトルだと斜に構えた本かな、という偏見を、読みもしないで持ってしまって損をしていたな、と読み終えてから思った。斜どころか、ごくごくまっすぐに構えた内容だった。でも最初のうちは自分の中に「斜」を刷り込んでいたから斜斜斜と思いながら読んでしまったところがある。斜じゃないものを斜と思って読むと無駄に複雑になるので、それを戻すのにまたエネルギー消費でもったいない。素直になろう。とにかく大変に面白い本だった。声に出して笑えてしまう部分が多々あるので外で読む時は注意がいる。早速友人に貸してしまって手元にないが、マスコミで話題になっている事件とか事象について改めて自分で足を運んでみるとこういうことが分かったというか、分からなくなったというか、その両方を素直に提示しているというもの。よって一緒に考えることができるし、一緒に悩んだりもできるし、マスコミ報道って何と思うこともできる。ご使用はご自由にってところ。

村上春樹が解説を書いているのは納得な感じ。『アンダーグラウンド』の印象に似ている。こういうスタイルを後押ししてくれるのはいいな。着地を急ぐことの弊害が大きい場合は多々あるのだから。そもそもどこにだって着地できる空き地があるとは限らないんだし。私は後半が特に面白かった。特に富士山麓の自殺の名所の樹海のあたりの住民の話とか。本っていいなと思うのは、歴史を遡ることができることで、若狭湾の原発の話にしろ諫早湾干潟の件にしろ、歴史が今に関係しているという当たり前のことを教えてくれる。この本を読みながら改めて思い出したのは、タイ人の不法滞在者が盛んに摘発されていた昔、大手マスコミの記者が誰か紹介してくれっていうから連れて行ったら「日本は楽しかったです」という感想を述べて、オドオド逃げ隠れしている不法滞在者の話が書けなくなって困って上司に電話していたこと。今はそんなことないと思うけど、当時はそんな方もいらしたんだなと思い出した。予定と違っていたら現実を予定に合わせるというのはあり得ないわけであるが、結局時間だとか内部事情だとか関係してくるわけなんだろう。事情に振り回されない力量がないと迷惑の方が大きいと思う。そんな事情と違って、こちらは軽く読めて中身は深い。もっと早くに読むんだった。
by kienlen | 2010-01-19 17:01 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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