マーヴィン・ハリス『食と文化の謎』

食関連を物色している時にアマゾンで注文した本。岩波現代文庫って読みにくい印象があるなあと思いつつ開いてすぐに、これは面白そうだなと思った。なんてたって目次立てが素晴らしい。肉がほしい、牛は神様、おぞましき豚、馬は乗るものか食べるものか、牛肉出世物語…という具合に秀逸な見出しが続いて最後は「人肉食の原価計算」である。出だしの文章も大変にとっつきやすくすぐに引き込まれる。一言で言うと、何を食べて何を食べないかがどういう法則の下にあるかを理論化し、その理論を懐にこれにもあれにも適用可能であることを論証していくもの。その際の情熱がムンムンと伝わってきて読んでいるだけで満腹になる。食の本だからといって決して食欲が沸くわけじゃない。学者独特の逃げ口上的文末の曖昧さはなしで、もう一人称できっちりと「私はこう思う」と断言して潔い。そもそも文化論というのは私は苦手。もともとすっきりしない文化を論じてますます複雑になるのに頭がついていけないのだと思う。その点この本は「文化唯物論」なのだそうだ。だから分かりやすいのだ。面白くて面白くて眠りたくなくなった。

で、武器ともいうべき理論の名称だが「最善化採餌理論」という。費用対効果というかコストとベネフィットを計算した時に最善であるモノを人は食すのであるという話。すなわち、草に乏しい土地では反芻して大量の生草を食べる動物を食べるよりも雑食動物の方が効率的であるし、穀物を人間と奪い合うような関係になる動物は食物としてタブーにした方が人のためであるとか、アメリカの話だとフェミニズムの台頭でバーベキューが盛んになって、すると生でも危険の少ない牛が豚より人気になるとか、食品業界の思惑とか、諸要素を突っ込んで計算すると常にベネフィットで最善化されるらしいのである。アジアについてはもうちょっと突っ込みが欲しかったけど、西洋人から見たアジア像みたいなのも面白く、全体にひじょうに楽しい本だった。訳者の解説によると、著者は日本では忌み嫌われている人類学者なのだそうだ。ふーん、こんな面白いのに残念ではないだろうか。解説の小泉武夫氏が虫食い族であることを知って何か嬉しくなった。これはめっけもんだった。
by kienlen | 2010-01-15 20:28 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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