福岡伸一『できそこないの男たち』

『生物と無生物のあいだ』があまりに傑作だったので、同じ著者のを2冊一緒に買ってこっちを先に読んだ。帯には「原始、生命はメスだけだった。オスは必要なのか?」とあるが、つまりそういう本である。人間世界もオスが必要なければ随分と平和であるように思うが、それだととっくに絶滅しているということになるらしい。つまり人類存続のためには必要らしい。人間に関しては生命の発生はすべて女であり、男になるのはY染色体の仕業であるというのはなんとなく聞いているところ。そのへんを素晴らしい文章で分かりやすく描写しているので、もう目の前で男になる過程が進行していくようで、ため息がでた。ため息に言葉をつけたら「あー、男って大変なんだなあ、だからか…」ということになる。だから…に入れたいのは、男性が女性を追い求める尋常ならざるエネルギーとか、鉄道模型を収集したり、蝶を追いかけてラオスの奥地まで行ったり、などなどの、つまり何かをこう追い求める感が、オス発生の根源的な問題に発しているように感じられたわけだ。それで妙に納得してしまった。そういうことだったのか。

男性の弱さについても、これでもかってデータをもってきて検証している。寿命、ガンの罹患率など。環境要因を考慮したとしても、ここまでの有為な差は性差に由来すると結論付けている。福岡先生の本の面白いところは「なぜ」に踏み込んでいるところだ。哲学の理論というのは純粋に抽象的で、そうですか、となるには思考力だけに極端に負荷がかかってついていけない感があるが、生物学という目に見えやすい道具を使って哲学してくれているんだから親切。顕微鏡をのぞいたり世界に目を向けたり、自在にミクロとマクロを行き来しながら考察が進むのがミステリーみたいで、科学ミステリーと呼ばれるのはまさに。タイトルが奇をてらっているように読む前は感じられたが、読んでみるとそんなことはなくてとってもストレートに中身を反映している。満足の1冊でした。散らばっているぼんやりした知識の点と、新しい知識がどんどん結ばれていく面白さをたっぷり味わった。
Commented by tate at 2009-11-30 18:54 x
「動的平衡」も名著です。文章がうまい!
Commented by kienlen at 2009-12-01 08:22
おお、tateさんはこちらの分野でしたね。文章のうまさは感動的です。
Commented by eaglei at 2009-12-01 23:09
2,3年前のことですが、
NHKで『男と女』(4回分)という特集番組がありました。
その中の話が、この記事の感想と重なるところが多いです。
テレビ番組の本もダイヤモンド社から出版されていて面白いですよ!

また精神科医の斎藤環さんが書いた本『関係する女 所有する男』(講談社新書)も読み応えあります。
Commented by kienlen at 2009-12-02 00:50
eagleiさん、毎度ありがとうございます。NHKの番組の件はブログで読ませていただいた記憶があります。私はテレビを家で見る習慣がなくて全く苦手。それはともかく、そうですね、新しい知見の発表というものではなく、すでに知られていることですから類似のがいくつかあるのは当然と思います。福岡さんの本は構成と文章力が魅力だと思います。斎藤環さんに傾倒のご様子も拝見してますが、私は今のところどうも読み通せないんです。でもその本は、貸してくれる人がいるか、図書館で見つけたら見てみます。ありがとうございます。
by kienlen | 2009-11-29 20:25 | 読み物類 | Comments(4)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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