末廣昭『タイ 中進国の模索』

新聞に掲載された岩波新書の新刊ラインアップで知ってすぐに書店で買って、しばらくお預けだった本をやっと読むことができた。タイの混乱は一時期日本のマスコミをも賑わしたが、今はあんまり目に入らない。もっともそれを見ても、一体何が背景にあるかは分らない。そういう意味でタイムリーで、政治経済について知っておきたいことが網羅されていて、実にありがたい本だった。新書でこの充実ぶり。ありがとうございます。なんだかドキドキしてしまったのは、私がタイで暮らし始めた1988年というのが「タイにとって経済ブームの出発の年」と位置づけられていることで、帰国した1996年までが、なんとなくタイの黄金期だったらしいと思われたからだ。それの何がドキドキかというと、特殊な一時期を見ただけだとしたら、そんな限られた面だけから何が言えるか、というドキドキだ。良かった、偉そうなこと言ってこなくて…。いや、言ってるかな。帯の惹句は「豊かさと微笑みは両立しないのか?民主主義と王政の調和、グローバル化に揺れる社会」。これって、タイに限らないような…。しかし中進国として分りやすくこの問題が表出しているということだろう。

冷静な分析本というのは、たいていは、明るい希望を感じることがない。ま、希望も絶望も勝手な主観だから分析と短絡的に結びつけるのは間違いか。この本も、どうなるタイ、の思いをますます強化するものだった。身近な問題としては、少子高齢化の急速な進展がある。先進国の中で日本は最も進度が速いと言われているが、タイはそれを上回っていることがデータで明らかにされている。最近は夫でさえ「村は年寄りばかり」と言うようになっている。そして政治。ちょうど私がタイに行った年を基点にした解説と分析なので身近に感じながら読むことができた。そうだ、帰国の翌年に新しい憲法が施行されて、それがタクシンという強い首相を誕生させ、そのゆり戻しがあって、それの延長に今があるようであるが、王政と軍と、微妙。それと、日ごろから感じている疑問。目上と目下の関係。目上の人には絶対という価値感。これはどうしてここまで強固なんだと身近ないろいろから常に疑問だったが、タイ人のシンボルの微笑みは失われても、こちらの価値感は守られているらしいことはこの本からも感じられた。ちょっとでもタイに興味ある人は読んでおいてソンはない本だと思う。
by kienlen | 2009-09-08 09:48 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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