鄙びた温泉旅館にて

下記、きのこそばを食べてから、深い谷と山を望みながら隣街へ。山越えした辺りは温泉地である。この道はよく通っているが、いつもは急ぎだから通るのであって、この日のように時間つぶしのために通るなんて、めったにない。それでキョロキョロしながら走っていたら、聞いたことのない温泉地の看板があった。通り過ぎてから気になって引き返す。脇道へ。じきに鄙びた温泉集落があった。さらに鄙びた旅館の壁に、入浴できると書いてあったので古いドアを開けた。チャイムが鳴って男性がロビーもどきの空間に出てきた。「あの、お風呂は入れますか?」「…」。まるで不審者への目線ではないか。無愛想ではあるが、かといって不快感を抱かせる雰囲気でもない。「混んでますか」と聞くと「空いてますよ」「駐車場ありますか」「あっちの駐車場に止めて下さい」ということで、共同の駐車場に止めて戻った。先の男性が出てきたので、レジで500円払うと「共同浴場だと200円だけど…」と遠慮がちに言って「あ、でもパイプの修理で休みみたいだね」とのこと。駐車場にもそう書いてあった。まあ、私にとって温泉代の500円にためらいはないのである。案内に従って奥へ。「内側からカギかけられるから」と安っぽいアルミのドアの前で言われた。男湯でもないし女湯でもない、ようだ…。
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ドア付近で女性たちが談笑している。カギをかけるまでもないと思われる。透けそうなアルミドアひとつ挟んで脱衣室。温泉の様子を見ると誰もいない。シャンプーを使う時、見慣れないモノが隣りにあった。シェービングフォームと書いてある。やっぱ混浴か。かといって、この状況で男が入ってくるわけない。読みかけの本を持ってきてぬるめの湯に浸かって読書、最高の気分。出てから「女湯」の札が外にかかっているのに気付いた。ってことは「男湯は別にあるんだ、なんだ」と、意味もなく安心。夏の温泉であるから暑くて一枚脱いだままで外に出ようとしたら、先の無愛想な男性から「あったまりましたか?」と声かけられた。ううむ、これって寒い時の挨拶ではないか。不思議な温泉旅館であるが、その後は湯についてのまっとうな話を聞いた。そこに奥様らしき人が出てきて「お茶どうぞ」と言う。ありがたい。「無愛想で驚いたでしょ」と奥様。企業の研究職だったのを「もう、嫌になっちゃったみたいですね」と辞めて、この温泉地の売りに出されていた空き家の元旅館に越してきたら「源泉を使うには旅館営業しないとダメ」と言われて、しょうがないから営業している、というようなことだった。納得。

お茶と梅漬けをいただきながら読書の続き。そこに男性客が案内されてきた。私が入ったのと同じアルミドアを開けて「ごゆっくり」と奥様。すかさず「女湯」の札を裏返すと「男湯」が表れた。またまた納得。お茶を飲み干した頃に奥様が注ぎに来てくれる。とってもいい雰囲気である。落ち着いて読書を満喫してから出た。出がけに「こんな静かな場所ですから、女性の1人旅の方もよくいらっしゃいますよ」と声かけられた。陰のある美人とか、曰く有り気なオーラを発する女性だったら、ジッと目を見て怪しげな微笑みを浮かべたいところだが、当方、そういう姿からはほど遠いのが残念である、あ、自分じゃなくて、先方にとって。言葉が宙に浮いてしまうから。「主人は研究職で私は専業主婦だったのに、こういう仕事をすることになるなんて」と言っていた奥様だが、なかなか板についていた。家出したくなったら逃げ場所にいいかも。それまでに少し陰を作っておくとするか。
by kienlen | 2009-08-01 22:38 | | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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