シリアの花嫁

これは遠方まで足を延ばしても見ようと思っていた映画だが、幸いなことに地元の映画館が上映してくれた。夫の店に用事があって寄って、それから1日1回だけ上映でもうすぐ終了のフロスト×ニクソンに行こうと予定していたところ、偶然、知り合いが店で食べていて少し話しているうちに1杯飲もうということになって、先方は確か仕事中のはずだが、まあまあ、ということでビール飲んでいたら話も弾みで上映時間を逃してしまった。目的のは見逃したが何か見たいと思って、一番近い映画館に行ったら時間的にちょうど良くて見た「シリアの花嫁」だった。思っていたよりすごく良くて、ビールなんかひっかけて行くんじゃなかったと後悔した。もっとゆったりしたテンポかと勝手に想像していたのが失敗だった。最初の場面で字幕に追いついていけない。白い部分と字幕の重なりが結構多くて、それがひじょうに残念だった。最初に解説されたのは、舞台の村について。もともとシリア領だったのが、1967年の第三次中東戦争でイスラエルが占領して地域の多くの人々が“無国籍”になったということだ。無国籍になるってどういうこと…、この日本にいてそういう状況を想像しようと思っているうちに物語はどんどん進んでいき、この自分の鈍さは歳のせいか元々か、両方か、と考えているうちにもっともっと物語は進むのだった。思い込みは禁物である。そもそも何を根拠にテンポはゆっくりだと思い込んだんだ。まずかった。最初から構えてみるべき映画。

この村の若い女性が国境を越えてシリアに嫁ぐ、というのが目に見える大筋である。この女性はあまりしゃべらないが、何を言いたいのかが伝わるような伝わらないようなの表情が素晴らしい。自分だって先行きが分らないんだというのが痛いほどに響いてくる。この女性が非言語的存在だから多彩なきょうだいの状況、家族の様子が引き立つ。女ふたり、男もふたりというきょうだいが集まることで、この家族の、国家というものとの直接的な関係や過去や、村の慣習や、長老や一家の大黒柱としての男が体現する世間の目と、女性が体現する抑圧や個人の自由との葛藤や何やらが浮かび上がってくる。普遍というライトで照らしたら隅々まで明るくなりました、みたいな内容なので片時も感動から自由になることができないのに、中東の乾いた空気感とか音楽の楽しさとかユーモアもあってリラックスもできるという、素晴らしい映画だった。最近の中では一番の感動作だった。もう1度見てもいいなあと思ったもの。女性で感動しない人はまずいないと思うが、男性はどうだろうか。知りたいな。字幕が読みにくいという以外は何から何まで素晴らしかった。
Commented by jun at 2009-05-28 16:36 x
雑誌の書評や映画評よりも、リアルタイムの記事で私も見たくなりました。先日は無国籍料理を食べました。関係ないか。
何度かkienlenさんが書いていましたが、「酒と映画の日々」で羨ましい。
 あと予告編で「朗読者」の公開予定をやっていましたね。映画の邦題では「愛を読むひと」になっていて笑ってしまいました。単なる恋愛映画と勘違いしそうな題ですが、確かに「朗読者」や「The Reader」では、入りが悪そうなのには想像に難くありません。
ではまた。
Commented by kienlen at 2009-05-29 08:15
これは見る価値ありと思います。ニクソンの映画を見逃してしまった。今日が最終日ですが無理っぽいです。無国籍料理って、そうか、そういう意味だったのか。
by kienlen | 2009-05-28 09:40 | 映画類 | Comments(2)

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