『歴史と外交-靖国・アジア・東京裁判』

東郷和彦著。数回涙が出た。こんな本が800円+税金で読めるとは、講談社現代新書に感謝。東郷さんのことは佐藤優の本に何度か出てきている確か。ロシア関係の部署に長かった外務官僚を退官してからは、各国の大学で教えたり研究したり、各国の知識人や学生と議論し、そして自分の思索を深めているという様子を状況、心情、そして豊富な知識を散りばめて書いている本で、それだけでも十分に重層的だが、この方が東京裁判でA級戦犯として20年の判決を受けて獄死した東郷茂徳の孫であるという出自ゆえの思索と研究がさらに深みを増している。国益を追求する外交官という立場と民間の役割の違い、国家と個人、法律と心情、国際法と国内法等々について、整理の仕方がとっても分かりやすく、大変に読みやすい。いろんな国で議論し考えるところは、この間読んだ上野千鶴子の『国境お構いなし』を彷彿とさせるが、どっちかというと上野さんのは笑いが多く、こちらは涙が多かった。

泣けるのは内容の悲しさというんではなくて、あくまでも突き詰めようとする姿勢に対しての感動なので涙一粒分にも足りない程度だが、胸がグググとなる。こういう人がいい意味での知識人であり、エリートなんだろう。本と実際の仕事の関係がどうかは分からないが、本を読む限り、こういう人が外務省にたくさんいると思うと日本の外交政策は安心…、でも退官されたということはどういうことかということもあるが。ここにはそのへんは全く触れられていない。帯の惹句は「外務省を辞めて考えたこと」。その通り。サブは「政治が歴史に転じ、歴史は政治に転ずる」。確かにその通りの本。品良くまじめで知性あふれる書。慰安婦問題、日韓問題、アメリカの原爆投下をどう考えるかという問題、それにもちろんサブタイトルにあがっている問題。いずれも国内問題があり国際問題があり政治であり、国益におおいに影響するが個人の辛い問題でもあるという複雑さを複雑なままに提示しつつ、それでも答えを求めようとするところがなんだか感動だった。かなり右よりと感じつつ読んでいたが、終わりの方で今の位置を「少し左」としているのがちょっとびっくりだった。素晴らしかったです。
Commented by eaglei at 2009-05-14 04:56
kienlenさんの書評は、いつも気になってます。
本を選ぶ際に、参考にしています。
この記事を読んで、同じ本を読みたくなってしまいます。

最近に出版された佐藤優さんの本「人生相談(個人編)」は、
メチャ面白かったですよ。
kienlenさんだったら、どんな感想を持たれるのかと思ってしまう。
Commented by kienlen at 2009-05-14 18:33
その本は読んでみたい。さっそく注文します。参考にして下さってありがとうございます。eagleiさんのような素直な視点は私にはないものなので、参考にさせてもらっています。またよろしくお願いします。
by kienlen | 2009-05-12 08:55 | 読み物類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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