『国際結婚-多言語化する家族とアイデンティティ』

国際結婚の諸相、ではなくて言語という観点に特化した論文集。家庭内で使われる言語が何かとか、親子間は何かとか、そういうのを聞き取りやアンケートで調査して、それぞれの研究者の専門の立場から分析しているもの。ソフトカバーで2600円+税は今の自分には高いなあと感じつつも、やはりこのテーマは…しょうがないな、と思って買った。発行はこの1月。今は16組に1組は国際結婚という時代であり、クラスに1人くらいの割合で外国籍の子がいる時代なのである。こうなっていくら不況だなんだと言っても、後戻りすることはないだろうし、年数を経れば同化するから、一時的にはちょっととんがっている山も、いずれ自然になだらかになる、なんてことはあり得ないわけで、国際結婚を含む異文化接触に関してはもっといろんな本があってもいいのになあ、なんて思っていたところなので飛びついてしまったのだが、なんだかよく分かんないなあ、と感じた。言語という観点からだけ分析することにまず不自然さを感じてしまうのは、私がこの分野を知らないからなんだろうか。明石書店の本ってテーマは興味のあるものが多いが、なんか読中、読後の感覚が似ていて、これもそうだった。すなわち、なんだか中途半端。もっと専門的にしてもらうか、いっそくだけて自由にしてくれるかした方が面白くないか、と思ってしまうわけだ。で、この本は一体どういう方々が読むんだろうか。先生方の教え子用の教科書なのだろうか。

まあ余計なことは考えずに読むと、自分も当事者なのでそれぞれに面白くないわけではないけど、シンガポールを舞台にしたのが、自分も何度か行ったことのある国だけに親近感も手伝って興味深かった。シンガポールで知り合ったなかなかインテリっぽいシンガポール人が、その日がナショナルホリデーだったのかあちこちに翻る国旗を見ながら「政府の方針は好きじゃない、でも小さな国をここまでもってくるためにはしょうがないと思う」というようなことを言っていたのがやけに印象に残っている。シンガポールの言語政策についての論文を読みながらあの彼のつぶやきをなぜか思い出した。学校教育は英語、その他に自分の民族の言葉が必修。そして国が運営する結婚相談所は大学卒のみが対象だったそうだ。優性思想みたいな政策を取っていることはシンガポール人から聞いていたが、なるほど。でもあんな小さな国がここまでの存在感を持てるのは、リー初代首相のそういう政策のおかげだったのだろう。その本人が今は、バイリンガリズムは「特別に才能があり意思の固い者」のみに有効だと自ら認めているということをこの論文で知った。自分を振り返ると、せっかく複数言語環境にあるのに子供をバイリンガルにできなかったことに後悔がないとは言えない。でも、結局時間とエネルギーをどこにもっていくかの問題である。でもやっぱり親の怠慢だったんだろうか。いろいろ考えた点はあったけど、すごく考えさせられたというのでもなく、ぼやけた感じですっきり感がない。だったらいっそ、こういうデータを元にもうちょっと面白くしてくれないもんだろうか。
by kienlen | 2009-03-02 20:05 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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