岩井志麻子『五月の独房にて』

友人から借りていた本をやっと読み終えた。小説だからじきに読めると思っていたが、結構時間がかかったのは、面白くて隅々までちゃんと読んだからだ。このところ小説をあまり読まないからこの作家も知らなかった。ホラーと聞いていたし、帯にも「女の日常に潜む狂気の沸点を描いた戦慄のホラー・サスペンス」とある。そんな風に聞かず、こんな風に書いてなければ私はこの小説をホラーとは感じないんじゃないかと思う。もっともつまり私はホラーって何なのか知らないのだ。きっと人間を裸にして本質みたいなのを描き出すというようなものなのかもしれないが、ホラーって言葉だけで怖い!と目をそむけてしまうのだからダメである。バラバラ殺人で逮捕されて16年の実刑判決を受けた女性が、刑務所の中の模様と自分の過去を交互に描きながら、事件の全容というか部分というかを明らかにしていく、というお話で、心理描写としては実にリアルだし、犯罪に至る過程としてもリアルであると思った。母娘関係を中心とする家族問題小説としても読めるし、犯罪小説としても読めるが、帯を見る限りは女性の嫉妬と妄想に重点を置いて宣伝しているようである。なんてたって「男を滅ぼすのは欲望や怒り、女を滅ぼすのは嫉妬と妄想」って惹句になっているし。

こういう帯で書店で手に取らないと思うから、友人に貸してもらわなければご縁のなかったものだと思う。ありがたいことだ。この間読んだ死刑囚に取材したノンフィクションの時に、かかわった殺人者に共通の特徴として、すごくありふれた価値観に捉われているという点が挙がっていたように記憶している。こういうことってマスコミ報道ではなされないので新鮮に感じて覚えている。で、この小説の主人公もまさにそういうタイプであることに、妙に感心してしまった。典型的には、女は若くて美しくないと価値がないとか、つまりそういう価値観だ。まさに妄想的にそれに捉われた最後は痛々しい限りだったが、母と娘の関係が主軸にあるとすれば、なるほどなあ、と納得することもできる。読みながら終始、なんだか懐かしい感じがしたのはなぜだろう。若い頃に読んだ小説に似ているのかもしれない。何かは覚えてないけど、こういうのは普遍的なテーマなんだろうなと感じる。時代に関係なくいつでもリアルに感じられる内容。なるほど、それがホラーってことか、やっぱ怖いんだ。文学の力ってすごいなあ。
by kienlen | 2009-02-22 17:35 | 読み物類 | Comments(0)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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