上野千鶴子『国境お構いなし』

潔いタイトルがいいなあと思って本屋の棚から取ってちょっと開いたら面白そうだったから買った。上野さんの本は久しぶりだ。このところ目につくのはケアの関係で、まだそれらは読んでない。この本の存在は知らなかったので、私にとっとは掘り出し物。ひじょうに面白かった。外国滞在記はわんさか出ていると思うけど、かといって私はあんまり読んでないけど、上野さんがもともと好きということもあるけど、やっぱり冴えてるなあと感じた。なんといっても動員できる知識とか対象を分析する時の思想の枠組みがたくさんあるから、縦横無尽に解釈してくれて洗練された寸劇を鑑賞しているうちに幕が下りて、なるほどお、と関心。田中美津がメキシコに滞在していたなんて知らなかった、という具合に、へえ、と思う箇所もたくさんあった。上野さんが40代に招聘されて教えていたメキシコとニューヨークの様子が中心。雑誌の連載で自由に書いていて楽しい。

私なんかすごく納得できるのが、移動と階層の関係だった。これについてはこの本でずっと基底に流れていたが、出身の国とか国籍ばかりで格差などを語っても説得力ない。国よりも階層の影響の方が私は大きいように感じるので、その点でとっても共感だった。国家、ジェンダーも専門だから、この人が国境を語ってつまらないわけない。研究者の位置をグローバルな視点から見るとどうなるかみたいなのも面白いというか、日本は大丈夫なのか、というか。言語観も納得だった。最後におまけというか、「戦後知識人の北米体験」というのがあって、これは特に面白かったな。鶴見姉弟、江藤淳、西部邁、加藤典洋を取り上げて、その北米体験がどういう影響を与えているかを、当時の日本とアメリカの関係や時代背景や、当人の属性なんかのいろいろなデータをジャッとコンピューターに入れて整理整頓して解説。石川好の「ストロベリーロード」が登場するかな、と思っていたら出てきた。懐かしい。若い頃の、なぜか記憶にあるお話だった。簡単に読めてこの充実で600円+税。ありがたい朝日文庫。
Commented by jun at 2009-02-11 09:11 x
上野さんの文は、まさに縦横無尽、天衣無縫ですね。安価だし買ってみよっと。おまけの「戦後知識人の北米体験」も面白そう。それが日本に大きな影響を与えていることはわかっても、誰にでも書けることではないですね。
 私は「戦後」よりも後で、また知識人でもありませんが、二十歳の時の短い「北米体験」はカルチャーショックそのもでした。「移動と階層」ですか、やっぱり読んでみよっ。
 蛇足ですが今朝の朝日朝刊23面に、国境も時流も自在に越えたと思える加藤周一さんについての「追想」と21日の「お別れ会」についてが出ていた。
Commented by kienlen at 2009-02-11 11:57
国境も時流も自在に越えることのできる人はどういう人か、この本にもいろいろな例が出てきます。興味があるなら一読をお勧めします。エッセイの楽しさを味わると思います。
by kienlen | 2009-02-10 11:46 | 読み物類 | Comments(2)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


by kienlen
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31