中島岳志著『中村屋のボース』

正式には『中村屋のボース-インド独立運動と近代日本のアジア主義』。一般書で2200円+税という価格に一瞬ためらったが、なんだか知らないが、読まねばという気がして買った。一般書とはいえ、私にとって軽く読めるようなものでもないから、仕事が一段落するまでは我慢していて、もう何でも読めるぞという状況の今になった。素晴らしい本だった。小熊英二先生のを読んだ時の感動に似ていると思ったら、その小熊先生が帯に推薦文を書いていた。「インドと日本をまたぐ国際思想史の研究書であると同時に、数奇な運命を歩んだ人物のヒューマン・ドキュメントとしても読める。これほど興味深い本にはめったに出会えるものではない」。はい、その通りで、出会いに感謝する。友人を待つ間に入った大学生協の書店で偶然、あの日に見つけなければ機会を逸していたかもしれない。発行された頃から話題になっていたのは知っていた。何度か書評を見たから。でも恥ずかしながら私は、ボースって何者か知らずにいたので、ヘンなタイトルだなと思った程度で書評の中身を読まずにいた。情けない。ところが、インド関係の本を読んでいる時にボースが出てきて、いきなり興味を持ったわけだった。

イギリスからの独立を武力闘争で実現させようとする革命家のボースの生涯を資料とフィールドワークと想像力で描いたもの。仲間は次々に逮捕処刑される中、追い詰められたボースは、当時日露戦争に勝利して勢いのあった日本に亡命する。アジア主義の実現という希望を抱いて。日本でも逃亡生活を送ることになるが、それを匿ったのが新宿中村屋の相馬夫妻で、その時に作っていたのが中村屋のインドカリーとしても今も人気、という話はともかくとして、やはり興味深かったのは、イギリス帝国主義打倒のために協力を求めた日本自体が中国や朝鮮に対して帝国的な振る舞いをしていることに当初は批判的だったのに、第二次大戦をインド独立の好機として日本政府に協力する言論を繰り広げ、それがインド人の間の分裂にもつながっていくというあたりの苦悩。ボースの視点を貫くことで散漫にならずに理解しやすい形になっている。人間ドラマの要素も周辺にいっぱいで小説みたいだ。今時には珍しいくらいの小さい活字で350ページ近い大作だが、一気に読める。それにしても自分はアジア主義の思想の系譜を知らないし、大川周明も読まないとなあとか、しかし趣味で読むにはなあ、とか、いやいや、今の時代にこそ必要なんじゃないかとか、いろいろと感じた。明日から出会う人には一押しで薦めたい本だな。
Commented by 野兎 at 2009-02-12 01:23 x
私も読んでみた。「ボースってそういう人だったの」、と思ったが、ボースは思想家としては大したことがないと思った。重要なのは末尾の「近代の超克」がちっとも古びていないという件である。近代の超克は、結局、大東亜戦争とともに思想戦としても敗戦したと思う。しかし、そのモチーフは今でも重要である。これが分からないで、輸入学問ばかりしている輩は何も分かっちゃいないのだ。
Commented by 野兎(訂正) at 2009-02-13 03:24 x
私も読んでみた。「ボースってそういう人だったの」、と思ったが、ボースは思想家としては大したことがないと思った。重要なのは末尾の「近代の超克」がちっとも古びていないという件である。近代の超克は、結局、大東亜戦争とともに思想戦としても敗戦したと思う。しかし、そのモチーフは今でも重要である。戦後意識で裁断するのは簡単だが、そうした輩は同じ過ちを繰り返すことになる。
Commented by kienlen at 2009-02-13 08:15
野兎さん、おはようございます。私は思想家ボースというよりも情熱家ボースのヒューマン・ドキュメントとして読んでおりました。終章のところは3枚貼った付箋のうちの1枚があるんですが、これが底辺に流れているから今読む価値があるなあと感じたのだと思いました。
by kienlen | 2009-02-01 23:33 | 読み物類 | Comments(3)

信州で読んだり書いたり、時には旅したり


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